彩雲国物語 まとめ

□男たちの想い
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「・・・あれ」

 遠方から帰ってきた燕青はある人物を見つけて足を止めた。

「何してるんですか〜、長官」

「・・・もう長官ではない」

「そうでしたね。葵宰相」

 皇毅は燕青を振り返ることなく部屋を見つめていた。

「中に入っても」

「あぁ」

 許可をとった燕青は皇毅のそばに行った。

「ここは何も変わってませんね」

「・・・」

「姫さんがいたころと何も変わらない」

「・・・」

「姫さんが御史台に来て2回目にもらった部屋・・・。あの時の姫さん、めっちゃ嬉しそうでしたよ」

「そうか」

 やっと清雅と対等の立場まで来た証拠だった。

 清雅とは全く違う方法で上に上り詰めた秀麗。

「この部屋は誰も使ってないんですね」

 燕青は目を細めた。

 目を閉じれば秀麗との思い出が鮮明に思い浮かべられる。

『燕青』

 そういって、笑う顔や、怒る顔、寝ぼけている顔、泣きそうな顔。

「ここには姫さんの思い出がありすぎる」

「・・・もう少ししたら片づけるさ」

「・・・清雅」

 皇毅が今度は後ろを少し振り返った。

「こうしてお会いするのは久しぶりですね、葵宰相」

「あぁ」

 朝議で顔を合わせることはあってもこうやって話をするのは久しぶりだった。

「それで、清雅ここ片づけちゃうのか」

「あぁ。もう少ししたらな」

 その言葉を聞くと、燕青は顔を崩した。

 ほほ笑んではいたが泣いているようにも見えた。

 といってもすぐにいつもの笑顔に戻ったのでどうなのかはわからないが。

 清雅も部屋に入ってきた。

「掃除、してくれてたんだな」

「あんたが御史台のやつに言ってるからだろ。・・・いい迷惑だ」

 ははは、と燕青は笑った。

「それで、葵宰相はここに何をされに?」

「・・・ふと思う。あの娘は、死に急ごうとしていた気がすると。

 官吏になるといった時も、皇女を生むといった時も誰かしら止めていた」

「そうですね」

 燕青も止めた。

 まだ死んでほしくなかった。

 秀麗にはもっと生きていてほしかった。

 そばにいてほしかった。

「けれど、あの娘の最期の顔はほほ笑んでいるように見えた。

 それだけで、あの娘は短い人生を心行くまで堪能したのだと思った」
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