オ ト ナ リ*°

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ドイツに来てからは外出しようと思う事が増えた。
今日のオフも朝から何となくドライブに出かけて、行きつけのレストランで朝食をすませてきたところだった。日本に住んでいた頃は周りの目だったりを気にして、なかなかオフの日に外出しようなんて思わなかったから、ここドイツでは本当にのびのびと過ごせている。


車を家の駐車場に止めて降りると、視線の先にお隣さんが慌てた様子で歩いているのが見えた。
玄関の前以外で会うのは、初めてかもしれない。
くるくる巻いた髪と淡いピンク色のワンピースが風になびいていた。
思わず見とれてしまった。いつもと雰囲気の違うお隣さんはなんだかすごく大人の女性に見えた。何かイベント事かな。両手には大きな荷物を抱えていて、いつも荷物いっぱいだな、なんて思った。

「おでかけですか?」

ありきたりな言葉をかけてしまったなと思ったがこのセリフしか思い浮かばなかった。
どうやら急いでいたみたいで、お隣さんは返事をするとすぐに行ってしまった。

しばらくその後ろ姿を見つめていたが、無意識に再び車に乗り込み後を追いかけていた。
クラクションを鳴らして隣から声をかけると、案の定驚いた様子で全力で手を振りながら、大丈夫です。と言われてしまった。でも、一度おくってあげようと決めた思いを曲げるつもりもなく、もう一度念を押すと、折れたのか申し訳なさそうに車に乗ってくれた。

ホームパーティーなんて実に外国らしいと思った。その中で楽しそうに笑う彼女を想像してみた。

車の中の短い時間だったが、彼女の事が少しだけわかった。歳は同い年だったし、音楽の趣味もそれなりに合った。なにより彼女とは不思議と素で話す事ができた。

言われた通りの道を進みながら、信号待ちをしていると運転中ずっと前を見て話していた事に気付き、チラッと隣を見てみた。すると大きな瞳がすでにこちらを見ており、ドキリとしてすぐに前を向き直した。今日初めて近くで見た彼女の顔は大人っぽくもあったが、やっぱりあどけなさの残る少女の顔だった。チームメイトによく中学生かと思った、とバカにされる事があるが、彼女もきっと年齢よりもずっと下に見られてしまうのだろう。

無事、その先輩の家の前までおくりとどけると、彼女はこれでもかとばかりにお礼を言って何度も頭を下げてきた。日本人らしいなと思った。
そのまま一声かけて車を発進させると、サイドミラーに移る彼女の姿を見て、改めて荷物いっぱいだな、なんて笑った。

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