オ ト ナ リ*°

□06
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ここゲルゼンキルヘンにきて数ヶ月。
最初は何もかもが初めてで戸惑う事が多かったが、今では快適に暮らせていると思う。
落ち着いた雰囲気のこの街は生まれ育った函南や鹿嶋にも似ていて、とても気に入っている。
日本にいた頃よりも外出するようになったし、気分もすごく軽くなった気がする。

最近ちょっとした楽しみも出来た。
となりの家の猫がうちの庭によく遊びにくるようになった。
庭と庭を仕切る壁の隙間をすり抜けて、うちの庭に顔を出すのだ。
始めのうちは、警戒した表情でこちらを睨んでは、近づこうとするとすぐに逃げてしまっていた。じゃあくるなよ、と思ったりもしたが、あまりにもよくうちの庭に顔を出すものだから何とかして手懐けてやろうと思った。
食べ物でおびき寄せようと思い、家にある食べ物を猫に見せつけてやったが全く興味を示してはくれなかった。試行錯誤しながらも懐いてはくれない日々が続いた。
だが、ある日実家から送られてきたカニカマを与えた所、くんくんと匂いを嗅いで美味しそうにペロッと食べたのだ。
その日からカニカマ欲しさに近くまで寄ってくるようになり初めて頭を撫でる事ができた。
毛が柔らかくふわふわでなんとも言えない気持ちになった。ここに辿り着くまでにかなりの時間がかかったのでよけい感動した。

それからというもの、特にカニカマを与えなくても足下にきて体を擦り付けてきた。
いつもだいたい5分くらいうちの庭をウロチョロして、家に帰っていくのだ。


今日も練習が終わり、お気に入りの黒いソファーでゴロゴロしていると窓からちょこんと顔を出す猫の姿があった。
おお、きたか。と思いながら窓を開けるとその場にゴロッとなりシッポを振ってこっちを見てきた。平和だなー。となんとなく思った。
今日はたまたまカニカマがあったので、冷蔵庫から持ってきてやると嬉しそうにカニカマを食べながら、猫はそのまま家に帰っていった。

庭の窓を閉めようとした時、隣の人の声が聞こえた。
どうやら猫の事を叱っているみたいだった。何でもかんでも食べないのと言わんばかりの呆れ口調で猫を叱っていた。猫、かわいそうだな、と思ったが、ああ俺のせいか。とすぐに気付きふっと笑ってしまった。

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