オ ト ナ リ*°

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それからはお互い朝にドアの前で会ったら挨拶をする程度だった。
それ以外でばったり会う事はなかったが、内田さんもドイツでの生活に慣れてきたのが少しづつわかって嬉しかった。
あと、もうひとつわかった事は、内田さんはたくさんジャージを持っている、という事くらいだった。


新聞ではちょいちょい内田さんの記事に目を通し、サッカーが順調だという事も確認していた。
移籍当初こそ、代表戦での負傷もあり低調な滑り出しとなっていたが、秋には右サイドバックのレギュラーに定着していた。
サッカーの知識はゼロに等しい私にとって、細かい事はわからないが、とりあえずレギュラーになれて良かったとホッと胸を撫で下ろしていた。

内田さんはこの街を気に入ってくれただろうか。
人々の暖かさに触れただろうか。
ただただ、内田さんが幸せだといいなと思った。

それはきっと内田さんが同じ日本人だから思った事だと思う。
みちこ先生が昔わたしにそう思ってくれていたように。


そんな事を考えていると、ふと飼い猫のぺぺがいない事に気付いた。
部屋を見渡すが、どこにも姿はなかった。
普段から外へはあまり出したりしないのだが、最近はよく庭でひなたぼっこをしている。
庭の窓をガラガラ開けると、口に何かを含んだぺぺが駆寄ってきた。

「ちょっと何食べたの。」

半ばあきれ口調で言うと、多分私が庭で育てているちょっとした野菜の何かだろうと思った。
前にもぺぺに庭の野菜を荒らされた事があった。それ以来あまり庭には出したくなかったのだが、最近は庭に出ても野菜を荒らす事なくおとなしくしていたので、油断していた。

ぺぺを抱きかかえて、家の中に放り投げてやった。
庭の窓を閉める前に、どこが荒らされたのか見渡してみたが特に変わった様子はなかった。
不思議に思ったが、そのままぺぺへの説教タイムが始まった。

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