オ ト ナ リ*°

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ドイツでたった一人で暮らすというのは、一見とても寂しく怖いものだと思うかもしれないが、この暮らしを穏やかで平和な暮らしに変えてくれたのは丁度1年前に飼い始めた猫のお陰だと思っている。

名前はペペと名付けた。ノラ猫だった為最初はなかなか懐いてくれず噛まれてばかりだったが今では本当に仲良しになった。寝る時ももちろん一緒。だけど私以外の人間はやっぱり苦手みたいで、家に遊びにきた友達等には警戒心丸出しでいつも友達に申し訳なく思うものだった。
はやく一人前の猫になるのだぞ。そうぺぺに言い聞かせてやった。


ドイツも6月にさしかかる頃、朝の出勤前にいつものように新聞に目を通していると、気になる記事が目に飛び込んできた。
それはここゲルゼンキルヘンに本拠地を置くドイツサッカー1部リーグのシャルケ04に日本人選手が7月1日より完全移籍するというものだった。
この街でシャルケ04を知らない者などいるわけもなかった。
もちろん私も知っていたし、なによりシャルケの練習場はこの家から車で10程度の所にある。
だが、もともとサッカーに特に興味がなかった為この街に来てから、シャルケの試合を見に行ったのは友達に誘われて行った1試合のみだった。対戦相手がどこでなんの大会だったのかも覚えていない。

ただ日本人のサッカー選手がこの街にくるというのは素直に嬉しかった。
同じ日本人が同じ場所で目標に向かって頑張っていくというのは、なんだか自分にも良い刺激になった。

”Uchida Atsuto”それが移籍してくるサッカー選手の名前だった。
日本のサッカー選手で知っている人といったら、カズとかヒデとか最近ではホンダ?とか、本当にそのくらいのレベルだった為、正直”Uchida Atsuto”と聞いてもまったく浮かんでこなかった。

でもその日本人選手がこの街で一生懸命サッカーを頑張る姿を想像したら、この街に来たばかりの昔の自分と重なって自然と頬が緩んだ。
勝手にそんな事を想像したりして大きなお世話だろうなと同時に思った。
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