ア イ オ ト 。
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とりあえず家用のジャージに着替えてソファに座ろうとすると、名無しさんが「わっ!」と声を上げたので、何事かと思った。
名無しさんの方を振り返ると、丁度俺の足下を指差して駆寄ってきた。
「足、血出てる。」
そう言って心配そうに俺の足を覗き込む。
「あー、多分今日の練習の時に削られたやつだわ」
傷が出来るのも血が出るのも珍しい事ではない。足を使って守っているのだから避けられない事なのだ。今日はいつもより傷口が広く、血が滲んで既に固まっていた。
名無しさんはいつの間にか濡れたタオルで血を拭き取り、消毒を始めている。
「染みない?痛くない?」
「ヘーき(笑)これくらいで心配し過ぎ(笑)」
「だって、すごい血出てるから。」
「風呂入ったら、ぜってー染みるな(笑)」
「そうだね(笑) …でも、これが篤人くんの頑張ってる証なんだよね、」
そう言ってまじまじと傷だらけの足を見つめる名無しさんの目は、本当に優しいものであった。
「そんなに生足見つめられると、照れるんだけど?(笑)」
「あ、ごめん(笑)」
名無しさんは恥ずかしそうにタオルを握ると、いそいそとキッチンの奥へと消えていった。
そんな名無しさんの後ろ姿を見つめながら、俺はとても和やかな気持ちになっていた。
些細な事でも心から心配してくれる名無しさんの事を、本当に愛おしく思った。そう思ったら、勝手に体は名無しさんの後を追っていて、小さな肩を後ろから抱き締める。ふんわりと、腕の中に名無しさんを感じて、俺は嬉しくなった。
「えっ、どうしたのっ?」
肩をすくめてビックリする名無しさんの顔は、きっと真っ赤なリンゴの様だ。
「別に。」
この腕の中に、今確かに存在する愛おしい人の事を、もう二度と手放したりはしない。
外はすっかり日が落ちて、サラサラと夜風が吹いている。
この家にも、もうすぐ夕食の時間がやってくる。