novel*short*
□酔っ払い注意報
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前にもこんなことがあった。
高校生の時、まだリサと付き合う前のことである。大谷が熱を出し、見舞いに来たリサにキスをしたとかしないとか。高熱でふらふらだった大谷にはその事実は定かではないが、全てを忘れていた自分へのリサの怒りようからして不可抗力でしてしまったのだろう。
今では付き合っているのだし、最早そんなことはどっちでもいい。しかし、今現在の状況はあまりにあの時に似すぎていた。
『あたし初めてやったのに!!』
『あたしイヤやって言うたのに大谷が無理矢理……でも嬉しかったのに!なのに覚えてへんとか…』
『もう、しらん』
大谷の頭の中は先ほど投げかけられたリサの言葉がぐるぐる回っていて。
二日酔いも醒めてしまうほどに、心臓は嫌な高鳴りを見せ、体が震えていた。
「オレ、何したんや……まさか…いや、そんなことは」
していない、とは言いきれなかった。
「大谷って彼女ともう一年以上付き合ってるんやろ?」
少し冴えてきた大谷の脳裏に突然昨日飲み会での記憶が戻り始める。サークルの男だけの飲み会となれば、話題は自然と下世話な流れになっていって。
「まだ、してへんのか?」
大谷も含め、皆が出来上がった頃にそんなことを聞かれた気がする。
「ほっとけ!!」
「大谷って意外と奥手やねんな。そういうの興味ないん?」
「興味ないことは…ないけど」
「ほな、彼女が奥手なんや」
「まあ……」
「けど、一年以上付き合っててまだっておかしないかー?ほんまはもう他の奴としてるかも」
「アホか!アイツはそんな女やないねん!」
「こういうんはな、強引なくらいでちょうどええねんぞ。もう今から襲いに行きや!」
「は?今から?」
「おう!そうとなったら電話や!電話!」
「アホか、やめろ!」
「大谷の携帯とったで!」
「よし、かけたれ!かけたれ!」
もう大谷自身大分酔っていたが、そんな記憶が朧気にある。
(まさか…そんな悪ノリでオレ小泉のこと襲……)
すると、隣にあった鞄の中で自分の携帯電話が震えていることに気付いた。メールだ。
『昨日は結構酔ってたみたいやけど大丈夫やったか?彼女とは上手くいったか?飲み会途中で抜けるん許したんやから後できちんと報告せえよ!』
文面を見て、サーっと血の気が引いた。
(やっぱりあの後にオレ小泉んちに押し掛けたんや…そんで……)
『あたし初めてやったのに!!』
オレやって初めてやった。
『イヤやって言うたのに大谷が無理矢理……』
オレ、無理矢理したんや……。
「ありえへん!!なにしてんねんオレ!!!」
リサの準備が出来るまで待つつもりだった。少し辛くても我慢出来ると思っていた。
なのにこんな一番最悪な形でリサを傷つけるなんて。何よりも、それを全く覚えていないだなんて。
さいあくや…もう、小泉に合わせる顔ないやんけ……。