novel*short*
□可愛いサンタにご用心
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「え……」
彼の目に映ったものは、サンタクロースであった。
「あの、ど、どう……?」
目の前のサンタ、いやサンタに扮したリサが小首を傾げる。その仕草がどうにも色っぽい。赤いワンピースの裾には白いファーがあつらえられ、その下には彼女のスラリとした長い足を覗かせる。冬の服装のはずなのに、何故か胸元は大きく開き、半袖なので細い腕もしっかりと見えている。
大谷はその一つ一つに狼狽え、絶句した。思わず持っていたケーキを落としそうになる。
「なっ……」
「ちゃ、ちゃうねん!大谷来る前に試着しよ思ててんけど、後ろのファスナーが引っ掛かって脱げんくなってしもて…」
恥ずかしそうに言い訳をするリサも今の大谷には刺激が強すぎて。
(あ、あかん!これはあかん!)
必死に落ち着こうとするも、鼓動はどんどん早くなる一方だった。
「大谷?顔赤いで?」
「え?!あ、赤くない!!」
「いや、赤いよ。風邪?」
「な、なんでもない!!なんでもないから、お前もうちょっとあっち行け!」
「なんでよー!」
「と、とりあえずその服、お母さんに脱がしてもらえって」
「今、いないねん」
「え?ほな弟くんは?」
「隆斗もいない。せやからこのまま出てきたんや!」
「アホか!こんな格好で出てくんな!」
「早く開けろ言うたんアンタやろ!」
恥ずかしさを隠すためにまたつまらない言い合いが始まっていた。大谷が言い返そうとした次の瞬間。
「ぶえーくっしょい!!」
「……」
リサが盛大なくしゃみをした。いくら見た目が可愛らしくなっても、くしゃみがああでは興醒めである。大谷もなんとなく我に返った気がした。
「台無しやな……」
「え?なにか言った?」
「なんにも」
「寒い!とりあえず中入って?」
そしてそのまま、リサの部屋まで案内された。リサはお茶を入れてくると言っていったん部屋を出る。
部屋に一人にされると冷静になった。
(アイツ、なんちゅー格好しとんねん。部屋で一人であんなん着てるなんてアホちゃうか。いや、試着言うてたな。なんの試着なんやろ……?)
「おまたせー」
お盆に二人分のカップをのせて、リサが帰ってきた。当然、服はさっきのままである。
「なあ」
「んー?」
「その服、なんなん」
「あー。明日バイトで着んねん」
「は?!」
24日、25日と連続でバイトになってしまった大谷に合わせて、リサも二日とも池辺に行くことになっていた。
そのバイトで着るということは、他の男にもこの姿を見られるというわけで。
そんなんあかんやろ!足見えすぎや!
「なんでバイトで着なあかんねん!」
「女の子はみんなで着ることになってんの」
「女の子?」
「あたしや!」
いやいやいや、そんな漫才してる場合ちゃう。
「あかん」
「なんでよ!アンタかて今日サンタの格好してケーキ売ってたやろ!」
「な、なんで知ってんねん!」
「遥に写真もろたもんねー!」
「アイツ……消せ!今すぐ消せ!」
「いやですー。もう保存したもんねー」
いやいや、オレのサンタ姿もこの際どうでもええ。問題は。
「とにかく、バイトで着るんはやめてくれ」
「イヤや!仕付けもこれからするのに!」
「え?仕付け?」
「うん。これ借り物やから短いねん。あたしが着るならもっと丈長めにせえへんと」
「え?スカート長く出来んの?」
「うん」
それならそうと早く言うてくれ。
嬉しいような悲しいような何となく複雑な気持ちになる。
「なんやねん」
「なにが?」
「なんでもないです」
何だか疲れを感じて視線を横に流すと、持参したケーキが目に留まった。
「あ」
「ん?」
「お土産があんねん 」
本当はお詫びのつもりだったのだが、思いの外リサが怒っていなかったのでお土産ということにする。リサは「えー!なになに!」と大袈裟に喜んだ。
「聞いて驚くなよ!」
「うん!」
「じゃーん!ホールケーキや!」
「わー!すごい美味しそう!大谷さすが!大谷カッコいい!」
「やろ?ま、バイト先で安く買うたんやけどな。で、どうする?」
「え、なにが?」
「切り分けて食べる?それとも……」
「このまま食べる!!」
そうだろうと思っていた。
誰もが一度は憧れるホールケーキの一人食い。カットされたケーキを買うよりも、リサだったらこの方が喜ぶと思ったのだ。何より大谷自身の希望でもあった。子供っぽいとは思うけれど、相変わらずリサとだけは気が合うことに思わず笑みがこぼれた。
「さ、さ、食べよ!」
リサが我先にとフォークを持った。
「お前、その格好のまま食べんのか?」
「だって脱がれへんねんもん」
そういえば、そうやったなあ。
「オレが脱がしたろか?」
「え……」
口走ってしまってから。
自分がとんでもないことを言ってしまったことに気づく。