novel*short*

□第二ボタン
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「ほんまにもうすぐ卒業すんねんなあ」

 卒業製作のためのビデオを撮りながら、のぶちゃんがぼそっと言うた。

「信じられへんなあ」

 ほんまに。
 このあたしがもうすぐ高校生やなくなるねんて。
 大好きな舞戸学園ともお別れや。
 考えたらやっぱり少しおセンチになってしまう。

「なあ、リサ」
「んー」
「あれ、大谷くんやない?」
「え、どれ?」
「あの木の下。女の子と一緒におる」

 のぶちゃんの指差す先を見ると、確かに背のちっこいアホ毛の男が女の子と二人でいるのが見えた。
 ちょっと遠いけど、あたしは見間違えたりなんかしない。大谷や。

「あれ、告白されてるんちゃう?」
「えっ」
「あ、ほら。今手紙渡された」

 心なしか照れてるような大谷の様子に胸がざわざわしてくる。

「ほっといてええのー?」
「べ、べつに関係ないもん。ほんまにコクられてるかわかれへんやん」
「アホ!たぶんあの子後輩やで。卒業間近の先輩呼び出して木の下で二人きりて、告白せんとなにすんのよ」
「う…」

 そう言われて見れば、なんやあの二人ええ雰囲気ちゃう?
 あの女の子、小さくて大谷と並んでも絵になるっちゅーか……。


『大谷先輩、卒業なんて私寂しいです…』
『オレも君と会えなくなるのがとても悲しいよ』
『先輩…あの、私ずっと先輩のこと…』
『言ってごらん?』
『ずっと…好きでした。先輩の第二ボタン頂けませんか?』


「ストーップ!!!」
「なによ」
「余計な子芝居せんでええねん!てか中尾っちいつからいたん?!」
「さっきから」
「ほら、ほっといたら大谷くんの第二ボタンとられてまうで」
「うち私服やし第二ボタンとかないやん」
「ええから!気になるんやったら行け!」
「べ、べつに気にならん」

 気にならんなんて嘘やけど……。
 けどあたしが今出てくのもおかしい気ーするし。
 なのに、のぶちゃんはぐいぐいあたしの腕を引っ張って二人の側まで連れていく。

「ほんまにええって!のぶちゃん!」

 と、その時ちょうど話が終わったのか例の女の子がこっちに小走りで来てあたしの横をすり抜けれ行った。
 あ、可愛ええ。
 少ししか顔は見えへんかったけど、美少女なのはすぐに分かった。
 「ほら!」っと強引に背中を押されて、大谷の近くにつんのめるあたし。

「あれ、小泉」

 大谷はあたしに気がつくと、こっちの気も知らんといつもと変わらない様子でこっちに来た。
けれど、その手には白い封筒があるのをあたしは見逃さなかった。

「や、やあ大谷くん!」
「はあ?」

 なんとなく見ちゃあかんもんを見てしまったような気がしてぎこちなくなる。

「こんなとこで何してん」

 それはこっちのセリフや。

「あ、あんたこそ何してん」
「オレ?オレは」
「お、女の子とこんなとこで二人きりてやらしー!」
「は?」
「デレデレしちゃって」
「デレデレなんて…てか見とったんかい」
「ええ、見てましたよ!可愛らしい子やったなあ!」
「なに怒ってんねん」
「怒ってませんよ?!ええ、怒ってませんとも?!」

 きょとんとしていた大谷は、そこで突然「ぷっ」と吹き出した。

「なに笑ってんの?!」
「おーこわ。怒ってるなあ」
「怒ってへん!」
「いやいや」
「なんなん!腹立つー!」
「やっぱり怒ってるやん」
「あんたのその笑ろてんのが腹立つねん!」

 大谷はそのまま楽しそうに笑い続けた。
 あ、笑顔可愛い……ってそうやなくて。

「お前、誤解してるやろ」
「なにがよ」
「オレがあの子にコクられたとか?」
「……ちゃうの?」

 だってそういう雰囲気やったやん。

「さあ?どうやろな?」

 ニヤリと大谷が笑った。

「なんなんそれ!」
「素直やない奴にはおしえませーん」
「うわ、めっちゃムカつく!」
「しょーじきに言うてみ」
「なにがよ」
「妬いたんやろ」

 ほんまに楽しそうに大谷が聞くから。悔しいけど言うしかないやん。

「そら、妬くよ」
「うん」

 満足そうに大谷が頷いた。あたしはまだ続ける。

「大谷とられたらイヤやねんもん」
「え?」
「卒業してもずっと一緒にいたいやん。あの子より大谷のこと好きやもん。あたしは可愛らしく手紙とか書けへんけど、でも大好きやねん」
「……」
「だから、大谷のこと」
「わか、分かった!ストップ!」

 さっきまでニヤニヤしてた大谷の顔が今度は真っ赤に染まっていて。

「どしたん」
「……そこまで言えとは言ってへん」
「なにが?」
「あーもう!!」

 ガシガシと髪の毛をかきむしって大谷はずかずかとあたしの前まで来た。

「ほら、見てみ!」

 あの封筒を差し出される。見ると。

「本田先輩へ……?」
「オレ宛じゃないねん」
「え?!」
「本田に渡してくれってさ。そんなん自分でやり言うたんやけど、恥ずかしくて無理ってお願いされてん」
「は?!」
「まあ本田とはバスケ部で一緒やったし、久しぶりに話したいからええかなって引き受けた」
「それだけ?」
「それだけ」

 キッパリと大谷が言い切った。
 なーんや。

「しょうもな」
「ほんまにな」
「よく考えて見れば大谷があーんな可愛い子にコクられるわけないわな」
「おうおうおう。どういうことやねん」

 そんなこと言いながら、あたしは自分がすごく安心しているのを感じていた。

「それならそうと早よ言うてよ!」
「お前が勝手に勘違いしたんやろ!」
「さあ?どうやろな?とか、格好つけてさ!」
「それはっ……」
「なによ!」
「いや、なんでもない」
「なんでもなくない!」
「てか、なんやねんお前。あんなハズいこと平気でぺらぺらぺら……」
「ハズくないもん! 」
「聞いてるこっちがハズいねん!」

 大谷はそう言うと、ふいっと顔を背けて少し怒ったような様子で教室の方に早足で歩き始めた。「待ってよー」とあたしもその横に並ぶ。

「……だいたいな」

 あたしが横に来たのを確認してから、ぼそっと大谷が言った。

「妙な心配すんな」
「え?」
「オレかて同じや」
「なにが?」
「だから…オレも卒業してもお前といたいと思ってる」
「え」
「せやから妙な心配すんな!どアホ!!」

 そう叫ぶと大谷はさらに早足になって。でも後ろからだと真っ赤に染まった耳がよく見えんねん。

「まってよーおーたにー」
「着いてくんな」
「ふっふっふ」
「キモい」
「大谷の第二ボタンはあたしのもんやね」
「第二ボタン?うち私服やん」
「ええの!」

 心臓に一番近い第二ボタン。
 大谷のハートがあれば、あたしはしあわせやで。




「青春やなあ」
「甘酸っぱいねえ」

 教室に戻ってから二人してのぶちゃんと中尾っちにいじり倒されるのはまた別のおはなし。


Fin,
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