novel*short*

□桜、咲け。
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「試験終了です。解答を止めてください」

 その言葉を聞いた瞬間、大谷敦士は一気に緊張の糸が解け、ゴンと音が鳴る勢いで机に突っ伏した。

(おわった……おわったんや……)

 彼が半年に及ぶ受験戦争から解放された瞬間だった。


 受験が終わったらやりたいことが沢山あった。勉強をしながらアレもやりたい、コレもやりたいと指を折ったこともある。けれど。

「いざ終わってみると何もする気起きへんな」
「そうなん?」

 ココアに口を付けながらリサが首を傾げた。


 ◇


 試験が終わり会場を出ると、駅までの道は受験生でごった返し、とても普通に歩ける状況ではなかった。

「試験どうやった?」
「うん、出来たと思う」
「俺もたぶん平気や思うわ!」

聞きたくなくても聞こえてくるそんな会話の一つ一つが今の大谷には重くのし掛かる。
 オレやって、精一杯やったはずや……。
 そうは思うけれど、やはり先ほど書いた解答が正しかったのかどうか気が気ではない。

「国語の一番の答えってAやろ?」
「おう」
「えっ」

 オレ、Bにしたんやけど?!

 一気に不安に駆られる。
 こうなるといよいよ自分が書いた答えが全て疑わしく思えてしまう。

「あかんかったら、どないしよ…」

 そんな風に少し俯きながら歩いていると、

「おーたにー!!」

 聞き間違えかと思った。
 現に人が多すぎて声の主の姿は見えない。
それなのに、リサはとびきりの笑顔と「おつかれ!!!」と少し大きすぎる声を上げながら真っ直ぐ自分の元へとやってきたのだ。

「なっ……」
「えへへー!おかえり大谷!」
「な、なんでおんねん!」

 まさかリサがいるとは思っていなかった大谷は心底びっくりした。そんな様子の大谷にリサは不満げである。

「ちょっと!せっかく今まで待ってた彼女に、なんでおんねん、てどういうことよ!」
「…待ってたんか?」
「待ってたわ!」
「あれからずっと?」
「そうや!」

 頬を膨らませながらリサが言った。朝、会場の前でバタバタと別れてからもう八時間が経っていた。まさか試験が終わるまで待っているとは思ってもおらず、大谷はひどく驚いた。

「そんな、帰っても良かったのに…」
「だって一番に、おつかれって言いたかったんやもん」

 不意打ちでそんな可愛いことを言われては、どきりとしない方が無理というものだ。

「…ありがとう」

 ぶっきらぼうにお礼を言って、リサの手をとる。すると。

「冷た!!!」

 リサの手は氷のように冷たく、冷えきっていた。

「お前、待ってたってまさかずっと外で待ってたんか?!」
「いや、そのへんのお店ぶらぶら見てたよ!けど、終わる時間分からへんかったから」
「うん」
「二時間くらいはここにおった…かな?」

 二時間!
 こんな寒空の下で二時間も待ったら体が冷えきってしまうに決まっている。

「アホか!風邪引くやろ!」
「平気平気!全然寒くなかったし」
「うそつけ!」
「ほんとに……ぶえーくっしょい!!」
「……」
「…えへ」
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