My Boy Friend.

□付き添い付き初デート。
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机の上に置かれた契約書は、数枚重ねられていた。それを手に取って見ようとすると、ボソクが取り上げた。

「僕の方から要点を説明するので、全て読まなくてもいいですよ」
「…何の契約書なんですか?」
ボソクは、ちらとジュンギさんの方を見てから、

「ジュンギさんとの契約書です」

私は、ぽかんとした表情でボソクを見上げた。ボソクは、にっこり笑って白い歯を見せた。

「ジュンギさんは、うちの国の大事なスターです。交際期間が2週間とはいえ、守って頂く事が沢山あります。まず第一に、ジュンギさんとの交際を口外しないこと。それから…」

と、ボソクマネージャーは、ぽかんと口を開けている呆けた私に向かい、契約内容を話し始めた。

•契約期間2週間を守ること。
•ジュンギさんに危害を加えるような事はしないこと。
•ジュンギさんを本当に好きにならないこと。
•人前でジュンギさんの名前を言わないこと。
•写真等、記録に残るようなものは避けること。
•手を繋ぐ以上のスキンシップを求めないこと。
•デート場所には必ずマネージャーまたはSPが同行する事を許可すること。
etc…。

全て言い終わった後、ジュンギさんがボソクマネージャーの契約書を引ったくり、ビリビリに破いて、ゴミ箱に捨てた。

「こんな馬鹿な話があるかよ。これは恋愛じゃない。ボソク、お前もう帰れ」

しっしっと手で払いのける仕草に、ボソクマネージャーは、眉を寄せたけど、また鞄から新しい契約書を取り出した。予備を用意していたらしい。ぬかりない、というのか、しつこいというのか。

「僕が決めた事じゃありません。事務所の社長に言われたのだからしょうがないでしょう。ね、ヌナ?」

こんなタイミングで振られて、私はなんて返せばわからなかった。けど、取り敢えずなんだか一方的だ。

「…私、ジュンギさんを好きにはなりません。そこは安心して下さい」

両手を太腿の間に挟み込み、ぼそぼそと言う私。
ジュンギさんからの視線を感じて、思わず目を伏せた。
「ジュンギさん、振られましたね」
ひゃっひゃっと、奇妙な笑い声をたてて、ジュンギさんの肩を叩いたボソクの手は、しっかりジュンギさんに捕まえられて、ねじられた。
「お前解雇するぞ」
「ジュンギさんにそんな力ないでしょ。僕を雇ってくれてるのは、しゃちょーさんです。しゃちょー」
ジュンギさんの瞳がめらめらと燃えている。今にもボソクをぶん殴って、ベランダから落としそうだ。
「まあまあ、ジュンギさん。私たち、恋人として付き合おうと約束した訳じゃないんだし。それにあなたスターだから、気をつけなきゃいけない事あるの、当然じゃないですか」

ジュンギさんはこちらを見て、不満そうに頬をぷぅと膨らませた。やはりこれは癖なのかもしれない。
ボソクは、にかっと笑って、私の方に書類を差し出した。
「やー、ななしさんが、物分りの良い人で良かった。さぁ、ここにサインをお願いします」

はぁ、と書類を見ると全て韓国語。私は目を細めたり、大きく開いたりした。そして、苛立っているジュンギさんの肩をなだめるように(逆効果だけど)抱くボソクに、あの、と尋ねた。

「これ、なんて書いてあるんですか?」
「さっき言ったじゃないですか。あの約束です」

はぁ、そうなんすか。
風邪も手伝って廻りの悪い頭で、ぼんやりと納得し、契約書にさらさらと簡単にサインした。

し終わった後、こんなに簡単にサインしていいもんかとも思ったけれど、あざっす!とボソクがあまりに軽く御礼を言ったので、すっかり疑う気を失った。

ジュンギさんは、あーあ、と呆れた表情で私を見て、そして、深く溜息をついた。
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