My Boy Friend.

□真夜中の手紙。
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あぁ、欠伸が出る。
首筋が小気味の良い音を立てて鳴る。

寝てしまいたい。

だけど寝ていいよ、と言われたら、素直に眠れないだろう。深夜のこの店の空気に未だ馴染めることができない。

コンビニの深夜のバイトを、かれこれ3か月程続けている。

女の子なのに、
と言う人もいるけど、私は人の居ない閑散とした場所で仕事をしたいのだ。変な意地とかではなくて。

半ばくたびれた思いを、溜息としてこぼしながら、私はお菓子の袋を、整理していった。

コンビニのドアが開いた。
スウェット姿の中年のおじさんが、こちらに笑顔を向けながら近付いてくる。常連さんなので、こちらも笑顔で迎える。

「姉ちゃん、頑張ってんな」
えぇ、まぁ、等と適当な相槌を交わす。
「俺、明日の朝飯買うところ」
そう言って、カップラーメンのコーナーに消えて行った。

私は脚の関節を鳴らして、立ち上がり、レジの方へ回った。

すると、また、ドアが開いてお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませー」
と、生あくびを噛み締めながら、お客さんの方を見ると、イカにも金品を狙っていそうな、全身黒ずくめの姿に呆然とした。

頭は黒いニット、黒縁の眼鏡、どこで入手したのかわからない黒いマスク。目線を下に向けると、黒いスニーカー、黒のスキニー、上は黒いジャケット、トドメを刺すように、首に巻かれたマフラーも黒だ。

確信しない人間がどこにいるのだろう。

頭に「コンビニ強盗」「女性店員刺殺」「逃走犯」などと、物騒な言葉が次々と過ぎってくる。

硬直した私の方へ、その全身黒ずくめ男が近づき、ジャケットの胸の中に手を入れ、私は、後ずさりをした。

全身黒ずくめ男は、私の顔の前に、白い紙を提示した。

《声を出さないで。動かないで。
僕は、別に変な人間ではないか
ら。普通にしてて下さい。》

変な人間ではないからという自己申告を信用する程、私は世間知らずではないのですけど。
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