long dream of SD

□片想い
2ページ/5ページ

リズミカルに響くドリブルの音に引き寄せられ、香はコートに近付いた。

「あ」

目の前にあるゴールに、ボールを叩きつけたその男は、まるで羽根が生えてるかのように見えた。
一瞬で視線を奪われ、香は目を大きく開いてその男を見つめていた。

「ん?…河嶋」

「はっ」

ぼーっと見とれていたことに気がつき香は頭をぶんぶんと振った。

「ごめん、覗いて。おはよ、流川」

「おはよ」

「早いね。いつもここで練習してんの?」

「まあ。…あっち」

「へ?」

流川はコートの入り口を指差した。

「中入っていいの?」

流川は頷き、ボールを指で回し始めた。
香はパタパタと走り、コートの中に入った。
すると、ボールが飛んできた。

「わっ」

慌ててそれを受け取ると、流川がゴールの前で腰を落とした。

「え、私がやるの?」

流川はこくんと頷き、指で誘った。

「ええ〜…私やったことないし運動音痴なんだけど…」

香は見よう見まねでドリブルをしてみるが、足にボールが当たり思いっきりスッ転んでしまった。

「!?」

「…〜っ…!」

「…大丈夫か?」

流川は駆け寄りしゃがんで香に手を貸した。

「う〜…すっごい恥ずかしい」

「足。見せろ」

「え」

「血ぃ出てる」

「あ、本当だ…。この歳になって転んで流血って…情なーあはは」

「俺のせいだな。わりい」

流川はそう言って、タオルを香の膝に当てた。

「あ!汚いよ!」

「む。まだ使ってないから汚くねえ」

「そうじゃなくて!血がついちゃうって!」

「んなの気にすることじゃねえ。いいから動くな」

「…あ…ありがと…」


香は黙って流川の手当てを受けた。
絆創膏は香が持っていたからそれを貼った。

「タオル、ごめんね。落ちるかわからないけど洗うから」

香はタオルをもらうため手を伸ばしたが、流川はそのままタオルを鞄に押し込んだ。

「落ちるかわかんねーんならいいよ。誰がやっても同じだろ」

「でも」

「いいよ」

流川はそう言って、またボールを持ってドリブルし、思いっきりゴールに叩きつけた。
流川のダンクでゴールはぎしぎしと音を立てていた。

「すっごい!すごーい!!」

香はパチパチと手を叩いた。

「昨日も凄かったけど、やっぱり近くで見ると迫力が違うね!」

流川は汗を拭いながら香の近くに来て、小さく呟いた。

「俺と仙道、どっちが凄かった?」

「え?」

「…なんでもねえ」

香は流川の質問は聞こえていたけど、流川は鞄からタオルを出して汗を拭いて誤魔化した。

「もう終わるけど」

流川の言葉に、香は時計を見た。
もうすぐ七時。

「一回帰るの?」

「うん。シャワー浴びる」

「そっか。私もう少し散歩してから学校行くんだ」

「散歩?」

「うん。たまたま早起きしちゃって」

「へえ」

香は流川がボールを拭いて丁寧に仕舞うのをみて感心していた。


「ねえ」

「ん?」

「ダンクって気持ちいい?」

「…まあ。かなり」

「へー…!いいなあ」

「やってみる?」

「え?」

流川は一度しまったボールを取りだし、ゴールへと向かって歩いた。
そして振り返り香を手招きした。

「はい」

流川はボールを香に渡してゴールを指差した。

「えー?無理だって…って!ちょっ!!流川!!?」

香が笑った瞬間、流川が香の身体を抱き上げた。
驚く香に流川は冷静に言った。

「ゴール届くだろ」

「あ」

香は目の前にきているゴールを見て、手にしたボールをそこの真ん中に入れた。

「わあ…!!」

「…どう」

「気持ちいい!!」

「リング掴んで」

「え?こう?」

香がリングを掴んだ瞬間、流川は香を支えていた手を放した。


「ひゃあっ!!ちょっ!!流川っ!!無理無理!!」

「それも気持ちいいんだけど」

「こ、これは無理!こわい〜!!」

流川は少し残念そうに、怖がる香を支えて下ろしてあげた。

「…こ、怖かった…」

「わりい」

「もう」

香は流川を少し睨んでから、にこっと笑った。

「でもダンク、気持ちよかった!ありがとう、流川」

「……ぉぅ」

流川は小さく返事をして、スタスタとベンチに戻りボールを片付けて上着を羽織った。

「あ、帰るの?」

「ぉぅ」

「じゃあまた後でね」

「…ぉぅ」

流川はさっさと自転車に跨がって走って行ってしまった。

「汗が冷えちゃったかな」

香も鞄を手にして、学校へと向かった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ