long dream of うたぷり
□自業自得
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香は蘭丸からもらったマスクをつけていると、向かいから歩いてきたカミュが足を止めてじっと見てきた。
「…ん?あ、カミュー。おはよー」
「…お前か…。その格好はなんだ」
「え?ああ。風邪引いちゃって。うつすといけないからって黒崎くんにもらったの」
カミュは少し身体を引いてじろじろと頭のてっぺんから爪先まで睨み付けた。
「…な、なんすか」
「はっ!!」
カミュは鼻で笑って、香の前で仁王立ちした。
「ただでさえ分厚い眼鏡でみすぼらしいというのに。愚民は可哀想だな!
俺なんかはマスクをしても溢れ出る高貴なオーラが」
「じゃ、カミュ、またね」
香は長くなりそうなカミュの言葉を遮り、さっさとその場を離れた。
「あ!貴様っ!」
「はーい!ごめーんなさーい!」
香は振り返らずに走って逃げ出した。
カミュの怒鳴り声が聞こえたけど、確か今日はカミュはオフ。
捕まると厄介だと、香は必死で逃げた。
「…はー…。危ない危ない。あれは三時間コースだね」
香は眼鏡をくいっとあげて、部屋のドアを閉めた。
ため息をついて、マスクを外す。
そういえばQUARTET★NIGHTを作った時はカミュのことを知らなかったから、五時間くらい拘束されたなぁ…と思い出していた。
「あのときは若かった」
うんうん、と頷き香は1日振りにピアノの前に座った。
大変な作業だけど、とても楽しいのはこの時間。
やっぱりピアノが好きなんだなと心からそう思う。
ポンと音を鳴らしたとき、ほわんと胸が暖かくなった。
ここに来てまだ一週間。
これから、これから。
そう自分に言い聞かせて指を踊らせた。