long dream of SD

□赤い髪
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次の日、香はダッシュしていた。
あと5分で始業のベルがなる。

「いきなり遅刻なんてぇ〜」

半泣きで走る香の横を一台の自転車が走っていった。

「ん?」

その自転車は少し先で停まり、足でバックしてきた。
振り返ったその男。


「流川!!…くん…」


流川は耳につけていたイヤホンを片方外し、自分の後ろを指差した。


「え?…いいの?」

「さっさとしろ。俺まで遅れる」

「あ、…うん」


流川の言葉に香は慌てて流川の自転車の後ろに足をかけた。

香は少し迷ったが、流川の肩に手をそっと乗せた。
その途端流川は自転車を走らせた。


「ひゃっ!ちょっ!行くよとか言ってよ」

香の文句に流川は答えず、イヤホンを入れ直した。

「む」

(聞く気ないってことね)


香は唇を尖らせたが、内心ドキドキしていた。
実は自転車の二人乗りに憧れていたから。

背の高い流川だから、香が立っていても安定感があるし、見た目もさほど気にならない。

(今ちょっとあたし可愛いんじゃない?)


そう思った時。


「いだっ!!」


頭にあり得ないくらいの衝撃で自転車から落ちてしまった。
頭はズキズキ痛むし、自転車から落ちて足が痛い。


「…だ…大丈夫か?」

流川が自転車を降りて香に駆け寄る。

「いったー…」


涙目の香がゆっくり上を見上げた。
流川もそこに視線を移動させた。

そこには通学路の標識。


「……ああ」

流川は標識と香を見比べて納得したように頷いた。


香は痛みのせいなのか、恥ずかしさのせいなのか、涙がボロボロこぼれてきた。
流川は一瞬ギョッとした。

「痛いか?」

香はうんうんと頷く。

「立てるか?」

香はううんと首を振った。


痛いのは本当。
立てないのも本当。
だけど泣いてるのはそのせいじゃない。


流川は自転車を端に寄せてチェーンをつけた。

そして香と自分の鞄を肩に掛けて、香の前にしゃがんだ。

「ん」


香の涙がひっこんだ。

「んって…え…」

「さっさとしろ」

「でも…いいの?私重いし、でかいし…」

「いいから」



香は恐る恐る流川の背中に手を伸ばした。


「行くぞ」


流川はそう言ってから立ち上がり、歩き始めた。

大きな背中に手を乗せて、危なげなくおぶってくれた流川に心臓のドキドキが強くなっていた。

そういえば、さっき「行くよとか言ってよ」っていったから、流川は「行くぞ」って言ってくれたの?

そう思えば、そのドキドキに拍車をかけた。


「…お、重いでしょ?」

「別に」


流川は表情を変えずに言った。


香は小さく「ありがと」と言ったが返事はなかった。

さっきとは別の涙がこぼれそうだった。
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