dream of 進撃の巨人
□大切なもの
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ジャンはいつも正直だと言った。
僕もその通りだと思っていた。
だけど、ある日それが嘘だとわかった。
彼は、本当は。
「おはよ、マルコ」
「ああ、おはよう、コウ」
「俺もいるぞ」
「知ってます」
「…んだよ」
「あはは、冗談!おはよ、ジャン」
「…おう」
「おうじゃないでしょ!?」
「…おはよ」
「よろしい」
コウはにこっと笑って、すぐにサシャたちのテーブルへ行ってしまった。
今日こそは一緒に食べないかい?と言おうと思っていたのに。
つい、その後ろ姿を目で追いかけてしまう。
揺れる髪はいつだって柔らかそうで、サシャの肩を叩いた手はしなやかで、コニーに向ける笑顔はいつだって輝いて見える。
「…マルコ、冷めるぞ」
「え、あ、うん、そうだね」
ジャンに言われて慌ててスープに視線を落とす。
野菜のくずだけが入った薄い味気ないスープ。
もし、コウと一緒に食べたなら、どれだけ美味しい御馳走になるのだろう。
そう考えながら口にしたスープは、やっぱり変わらずいつもの薄い、少し冷めたスープだった。
訓練兵としてここにいるのに、恋愛事にうつつを抜かしているなんて。
誰にも言えなかった。
だけど、ある日フランツがハンナと付き合っているのだと聞いた。
エレンなんかは「ここに何しに来てるんだ」なんて言ってはいたけど、比較的皆に祝福されていたようだった。
それに影響されたのか、それともただ表面化しただけなのか、やたらとそういう話題で盛り上がるようになってきた。
それでも、僕は誰にも言えずにいた。
何故なら。
ちらりと隣のジャンを見る。
彼も、コウを見ている。
それに気がついたから。
だから、僕はこの気持ちを誰にも言わないつもりだ。
ジャンにも。
…そして、きっとコウにも。
僕は、王に仕えるために憲兵になるのだから。
そう心に決めたのは何度目だろうか。
コウに想いを伝えたい。
恋人になってほしいと思っては、そんなことは今はすべきことではないと想いを抑え込む。
そして、またコウと話すたび、コウが笑うたびにそれを繰り返すのだ。
いっそ、嫌いになれたら。
いっそ、ジャンと付き合っているのだと言ってくれたら。
楽になれるのかもしれない。
ジャンなら、きっと祝福できる。
そう思っては、そう思えない自分の感情が溢れ出す。
誰にも渡したくないと。
こんなにも自分の感情がコントロール出来なくなるものかと驚いている。
あるときは幸福感に満ち溢れ、あるときは嫉妬心に苛まれている。
こんな状態を。
恋だというのだろう。