dream of 進撃の巨人
□恋心
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「あれ?」
資料室でコウは一冊の本を見つけた。
表紙に何も書いていない古い本。
裏返してみても何も書いていない。
厚い茶色の皮で出来た表紙を捲る。
「資料室のなら番号がついているはずだから…誰かの忘れ物かな…?」
勝手に見てもいいものか悩んだが、中に誰かの物かわかるものがあるかもしれないと、ぺらぺらとページを捲った。
「…うみ?」
ふと、あるページで手を止めた。
「…世界の半分以上は…うみ…で占められている…?うみは…塩水で…。
塩水?そんな高価なものが?」
隣のページの挿し絵には、太陽と雲と、大きな湖のようなものが描かれていた。
湖と違うのは、その先に岸が描かれていないこと。
「これがうみ?」
コウは最初のページから、もう一度目を通した。
うみという、初めての言葉に興味を抱いたからだ。
椅子に座り、腰を据えて読もうとしたとき。
「コウ」
振り返るとアルミンが立っていた。
「アルミン。どうしたの?」
「うん、ここに本を忘れちゃって。知らない?」
本と言われ、思い当たるものが目の前にある。
それを差し出し、アルミンに見せた。
「これ?」
「あ、それ!ありがとう!!」
アルミンは丸くて大きな目をさらに大きくして本を受け取った。
「それってフィクション?」
「え?」
「あ…実はちょっとだけ読ませてもらっちゃって…ごめんね」
「ああ。いいんだよ。ただ…これは外の世界の本だから…内緒にしていてほしいんだ」
アルミンはそう言って、コウの隣に座った。
コウはアルミンに少し近付き聞いた。
「外の?」
「うん!壁の外の本。昔、おじいちゃんがたくさん持っててね。
四年前の事件で全部失っちゃったんだけど。
この本だけは持ってきたんだ」
コウはふと王政の条令を思い出した。
「外の世界のことは調べてはいけないんじゃなかった?」
「うん。だから…内緒にって」
アルミンは口の前で指を立てて、笑った。
その顔がすごく可愛くて。
コウは頬を赤らめた。
「…アルミンって…可愛い…」
「ええ!なんだよ!もう!…僕は男だから可愛いとか言われても嬉しくないよ!」
ことあるごとに可愛いと言われてきたアルミンは、頬を膨らませてコウに抗議した。
「あはは、ごめんね。でも、その怒ってるのも可愛い」
「もう!」
アルミンはぷいっとそっぽを向いてしまった。
「アルミン、ごめん、許して?」
アルミンはちらっとコウを見た。
コウは、手を顔の前でパンっとあわせてアルミンの顔を覗いた。
「ふふ、いいよ。冗談だから」
「よかった。
ねえ、もし良かったらその本貸してくれないかな?
私、うみのことが知りたくて」
コウのお願いにアルミンは目をキラキラと輝かせた。
「もちろんだよ!最初の方に海のことが書いてあって、他にもたくさんのことが書いてあるから!」
「…あは。アルミンは本当に好きなんだね」
「え?」
「ありがとう。読ませてもらうね」
「う、うん」
アルミンはコウに本を渡すと、鐘が鳴った。
「あ、寮に戻らないと」
「それじゃあ、アルミン。なるべく早く読んで返すね」
「うん。もし良かったら感想聞かせて」
「うん」
コウは手を振り、資料室を後にした。
少し重たい本を両手で抱えて、寮に戻った。
「コウ、その本」
部屋に戻ると、手にしていた本を見てミカサが声をかけてきた。
「これ?アルミンに借りたの」
「そうなの。アルミンがそれを無くしたって探していたから」
「うん。資料室で見つけたんだ」
「アルミンの大事な本だから」
「わかってるよ。すごく嬉しそうに話してくれたから」
「そう。でも意外」
「え?」
「アルミンはその本がすごく大事だから、あまり人に貸すことはしないから」
「そうなの?」
「ええ。コウのことを信頼しているみたい」
ミカサはそう言って、布団に潜った。
コウは本を見つめた。
よく見ると、古くはあるが大切に読まれていたことがわかる。
アルミンの宝物なのだとわかる。
コウは自分のベッドに座り、消灯されるまでの間、ページを丁寧に捲った。