long dream of うたぷり

□ホワイトバレンタイン
1ページ/7ページ

「香ちゃん、ちょっといい?」

久し振りに事務所に顔を出すと、林檎が香を呼んだ。
香が林檎の所に行くと、手をぐいっと引き寄せられ小声で聞かれた。


「あの四人と何かあった?」


「へえっ!?」

声が裏返って顔を赤くする香に、林檎はため息をついた。


「もぉ…。いい?恋愛はダメよ?」

「そ!そんなのわかってますよっ!わ、私じゃなくて…その…」

「あの子達から?」

こくんと頷いてから、自分がなんて自意識過剰な女なんだろうという気持ちも拭いきれなかった。
冷静に考えてこんな普通の女にトップアイドルが手を出すなんて有り得ない。

「…そっかぁ…香ちゃんは魅力的だからねえ…年頃の男の子なら仕方ないかぁ」

林檎はため息をついて、香をじっと見つめた。
分厚い眼鏡の奥にある綺麗な目を、林檎は知っていた。

よく見ないと気づかない、隠れた魅力。
一度気がついてしまうと抜け出せなくなってしまう。


「…り…林檎ちゃん?」

「あ、ああ。ごめんね。
あの子達には日向くんからちゃんと言ってもらうからね」

「…は、はぁ…」

「あ、それはそうと。曲、出来たんだって?」

「あ、はい!歌詞は皆が考えてくれてるので…」

そう言って香は楽譜を取り出して林檎に渡した。
ふんふんと目を通して、林檎は顔をあげた。


「いいじゃない!すごいわ!すごく大人っぽくなってて…あの四人にぴったり合ってる!」

「良かった…」

香はほっと肩の力を抜いた。

「四人にぴったりというか、四人の魅力を引き出したような、そんな感じね。うん!いいと思うわ!」

「えへへ」

前髪を撫でて香は笑った。

「じゃ、あとは歌詞ね。出来たらまた見せてちょうだい」

「はい!」


「あ、あと、これ持っていってくれる?」


帰り際、香は事務所の人に大きな段ボールを渡された。

「あと3つあるから、タクシーで帰って」

そう言われてタクシーに次々と段ボールを積み込まれた。

「なんですか?」

「四人に送られてきたバレンタインチョコレート」

「うわぁ…これ全部…?」

「まだ一週間あるからね。まだ増えると思うから四人にこまめに取りに来てって言っておいてくれる?」

「…はーい」

段ボールでいっぱいになったタクシーに無理矢理座って、香は寮へ帰った。
運転手さんに手伝ってもらって寮の玄関に段ボールを置いていってもらう。

「ありがとうございました」

「流石アイドルだねえ」

運転手さんは感心して笑って帰っていった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ