long dream of うたぷり

□君の瞳に恋してる
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香は部屋に籠って、壁にクッションを投げつけた。
カミュといい嶺二といい、どうして簡単にキスなんかするんだろう。

「…なんなんだよぉ…」

恋愛禁止ってなに?
付き合わなきゃ何したっていいの!?
香はぐしぐしと涙を袖で拭った。

何よりもイライラするのは。

悔しいことに、不快感よりもドキドキしてしまっている自分の感情。
カミュにも嶺二にも、別に恋愛感情はなかったのに。
キスされたことで妙にドキドキしてしまう。
そんな、尻軽みたいな自分が一番苛立ちの種だった。


「…そろそろカミュのうどん作らなきゃ…」

時計を見て、ため息をついた。

腹は立つけど、こうなったらこうするしかない。


「なかったことにしよう」


うん、と頷いて香は眼鏡をかけ直しマスクをつけて、部屋を出た。

厨房に行くと、嶺二がカウンターに座っていて、香はびくっと身体を引いた。
嶺二は今にも泣き出しそうな顔で香を見つめた。

そして。



「香ちゃん」

ゆっくり近づいて、香が身構えたとき。
がばっと頭を下げた。

「ごめん!!」


「…へ?」


「…本当…ごめん!反省してる!」

「れ、嶺二くん?」

「もうあんなことしないから!本当…ごめん!」


意外な反応に香はおろおろしてしまった。

「も、もういいから!」

「…怒ってる?」

「そ、そりゃ、怒ってたけど…もういいからっ!」

こんな風にされると胸が痛い。
こんな目で見られて怒ってられる人がいたらそれは鬼だ。
いや、鬼さえもきっと許してしまうだろう。

「本当?」

「うん。…あ、でももうダメだよ!」

「…えー…」

「おい」

「あははっ!うそうそ!嘘じゃないけどっ」

にぱっと笑う嶺二は、人の心を柔らかくさせる力がある。
香は笑って、もう!と嶺二の肩をぺしっと叩いた。


「…良かった」

「え?」

「…もう話してくれないかと思った」

嶺二は心底ほっとしたように香の手をそっと握った。

「ありがとう、香ちゃん」

「…嶺二くん…」


「でも、諦めたわけじゃないからね?」

「へ?」

「僕のこと好きになってもらえるまで頑張るからねっ!よろしくまっちょっちょ!!」

嶺二はウインクをして、手をぶんぶんと上下に振った。
がくがくと揺さぶられながらも、香はなんだかおかしくて、少し…いや、かなり嬉しくて。

「うん」

そう言って、にっと笑った。
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