long dream of 進撃の巨人

□ストヘス区
1ページ/6ページ

作戦当日。

コウはまだ薄暗い早朝に古城の庭を歩いていた。
少しは眠った気がする。
しかし、体が重たいのは変わらなかった。
あの日から改善されることのない体の重さと頭痛。
それでも作戦開始の時間は刻一刻と近づいてくる。

本当にアニが女型の巨人なんだろうか。

時間が過ぎる度にその確信が薄れていく。
その代わりに楽しかったアニとの思い出が次々に思い起こされる。
一緒にお風呂に入ったことも、訓練をしたこと、ピクニックにも行った。
時々ふっと笑うこともあった。
手紙だって。


「……っ……ふっ…うぅ…」


コウは口を押さえてしゃがみこんだ。

何が悲しいのかわからない。
裏切られたとか、そんな安っぽい言葉じゃなくて。
アニが、どんな思いで。

私を助けたんだろう。

私のこともアルミンのことも。
きっと、あのときに殺していたら。
見逃さなかったら、助けなかったら。
こんなことにはならなかった。
きっと、アニは使命を果たして、正体もばれることもなく。
壁を破壊できたはずなのに。


「…アニ……」


私は助けてくれたあなたを。
罠にはめて。
捕らえにいく。
願わくば、間違いでありますように。
嫌われてもいい。
もう二度と会ってくれなくてもいい。
お願いだから。
アニ、あなたじゃないことを。



「コウ」


ビクッと身体を跳ねらせ振り返ると、ジャンが立っていた。

「…眠れなかったのか?」

涙がぼろぼろこぼれているのにも関わらず、ジャンはコウに涙のわけを聞かなかった。
コウの隣に座り、頭をぐっと自分の胸に押し込んだ。

「…たまに考えるんだ。巨人のいない世界のこと。
もし巨人がいなくて壁もなくて…そんな世界ってどんなかなって」

「……どんなかな」

「世界が広すぎてお前に会えてなかったかもなって」

「……そーかも…」

「だから、それだけでも巨人のいる世界で良かったかなって思うわけだ」


ジャンの胸の中でコウはくすっと笑った。

「…そーかもね」

「でももうお前に出会えたことだし、今度は巨人のいない世界を目指してもいいよなって」

コウはジャンの胸に頭をぐっと押し込んで、こくんと頷いた。

「…俺は…頑張るぞ」

「…私も…頑張るよ」

「泣きたくなったら俺んとこに来い」

「……ん」

「泣いてるお前はあんま見たくねえけど、頼られるのは嬉しいからな」

「ふふっ…わかった。頼りにしてる」

「おう」


コウは顔を上げて、少し照れてるジャンを見つめてお礼を言った。
そして、そっと目を閉じた。

重なる唇から気持ちが伝わっていく。


これからもきっと何度も落ち込んで悩んで泣いて苦しんでもがいていくんだろう。
だけど、ジャンがいれば。
きっと大丈夫。
根拠はないけど、きっと大丈夫な気がしてる。


だから。


私は、やるべきことをやろう。
それが、友との別れだとしても。
人類の未来のために。
そして。
私たちの未来のために。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ