long dream of 進撃の巨人

□初陣
1ページ/6ページ

拠点に着くと皆、一様に混乱している。
コウも手の震えが止まらなかった。

「コウ!」

「…ジャン!」

駆け寄るジャンにコウは手を伸ばす。
ジャンはその手を掴み、自分に引き寄せた。

「くそっ…なんでこんなことに…!」

「…ジャン…」

「いいか!絶対生きて帰ってこい!絶対だ!」

「…うん…。ジャンも。絶対」

「ああ。絶対生きて帰ってやる…」

ジャンはコウの身体を抱き締めた。
その手は少し震えていて、肩に食い込む指が少し痛かった。
コウも震える手でジャンの背中をぽんぽんと叩いた。
泣いている子どもを落ち着かせるように。
優しく。


「…もう行かないと」

「ああ…」

「…ジャン。またあとでね」

「…ああ!」

コウはジャンの腕から離れた。
またあとで。
必ずまた会える。
そう信じた。


「俺達は中衛東側だ。住民の避難が完了するまでは持ちこたえるぞ」

班長のライナーの言葉に頷き、コウはトリガーに指をかけた。

「行くぞ!」

一斉に走り出す。
既に前衛の方から何体か巨人が向かって来ているのが見える。
前衛の駐屯兵の先輩方はやられてしまったのであろうか。
コウの頬に汗が伝う。

「目標一体!二時の方向!距離500!
俺が足をやる!コウはうなじだ!
他は補助、索敵を頼む!」

「わかった」

ライナーが一足早く巨人の方へと向かう。
コウは少し回り込んで巨人へと向かった。

ライナーのブレードが巨人の膝裏を削ぐと、その場に大きく巨人が倒れた。
コウはその巨人のうなじにアンカーを刺してブレードを構える。

訓練と同じ。

そう言い聞かせて、うなじにブレードを食い込ませた。

その感覚は、訓練とは少し違って、嫌な感触だった。
巨人の血が顔にかかる。
それは少し熱くて、すぐに蒸発していった。

「よし!次だ!」

ライナーはすぐに次の巨人を見つけ、走った。
コウもその後を追いかける。

この調子なら何体かいけるかもしれない。
そんな考えが頭に浮かんだ時だった。

「三体向かってくるぞ!」

その言葉に顔を上げた瞬間、あっという間に一体の巨人が距離を詰めていた。

奇行種。

そう思ったときには、コウの隣にいたトムが掴まれていた。

「うわああああ!!助けてくれえええ!!!」

「トム!!」

「コウ!駄目だ!」

コウはトムを掴む巨人に向かおうとするが、ライナーに肩を掴まれ止められてしまった。

「まだ向こうから二体来ている!とりあえず距離を取るんだ!」

トムがゆっくり巨人の口のなかに押し込まれていく。
コウは歯を食い縛った。

「…っ!」

涙を流す暇もなく、次から次と巨人は増えていく。

「きゃあああっ!!!!」

叫び声が聞こえる。
だけど、それでも走らなければ。
自分が死ぬだけ。

仲間の声を振り払うように、コウは走った。

「コウ!右一体任せるぞ」

「…わかった」

ライナーは目の前にいる二体の巨人に向かっていく。
二体の巨人は仲間を食べている。
だから、うなじがこちらを向いている。

こんな状況がチャンスだなんて。

コウはトリガーに力を込めた。
ライナーとほぼ同時にうなじを削ぎ落とした。
巨人が倒れ、蒸発していく。
残された仲間の遺体に目をやる。
首は既に無く、誰だったのかすらわからない。
血塗れのジャケットから目が離せなくなった。

こうして、私も死ぬんだろうか。

背筋が凍る。
それでも、巨人は止まらない。

「コウ!ぼーっとするな!まだ来るぞ!」

「わかってる…!」

心の中で、助けられなくてごめんなさいと繰り返し、再びコウはライナーと共に走り出した。

もう、二人しか残っていない。

それでも。
住民の避難が完了したという知らせがあるまでは。
または、自分の命が尽きるまでは。
死に物狂いで戦うしかない。


コウは視界の端に、アニの姿を捉えた。

「ライナー!アニが!」

コウの言葉にライナーは足を止める。
アニの回りに巨人が三体。
コウはライナーの返事を待たずに駆け出した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ