→鈍感

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「拓海も行こうよ」
「嫌だ」

この誘いは断るのかよ。

「俺、夏休みどうせ暇だし」
「俺は暇じゃないんだよ」
「何か用事でもあるの?」

身を乗り出す俺を拓海は押しのける。

「別に」
「えー、何で教えてくれないの?」
「圭助に関係ない」

カチンときた。

そんなふうに突き放さなくてもいいじゃないか。
だって気になるんだもん。

拓海がどんなに隠しごとをしようと俺には裏の手がある。



「あぁ、実咲ちゃんのことかな」
「みさき、ちゃん?」

初めて聞く名前であった。

おばさんはほうきで玄関を掃きながら教えてくれた。

拓海に問い詰めなくとも母親に訊けばすぐに答えは分かる。

「いとこのお姉さんなの。実咲ちゃんは塾の先生でね、毎年夏休みは家庭教師として来てくれるのよ」

初耳だ。

「高校受験も実咲ちゃんのお陰で受かったようなものなの」

確かに拓海の成績では今の学校は無理だった。

彼の部屋の机に積まされていた参考書の山を思い出す。

あれはそのいとこが用意してくれたのかな。

「中1からだったから・・・今年で5年目かな」
「そんなに長い間ついてたんだ」
「あの子は嫌がってたんだけどね。ほら、勉強得意じゃないでしょ。それが何でまた北を受ける気になったんだか」

おばさんは嬉しそうに笑うとほうきを立てかけた。
ちりとりに結構な量のゴミが集まった。

梅田家はゴミが集まりやすいらしい。
1年中玄関掃除をしている気がする。

言われてみれば何故拓海は北を受験したのだろう。
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