■第二篇

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「円」

名前を呼ぶと円の肩がびくついた。

彼の顔を見ると実感する。

こんなに好きなのか、と。

いつも思い浮かべていた円よりもずっと肌が白くて、可愛らしくて、あどけなくて。

触れようと手を伸ばすと彼の体が後退した。

「・・・触らないで」

軽くショックを受ける。

俺は伸ばした手を垂らして俯く彼のつむじを見つめる。

本当に嫌がられてしまったみたいだ。

大打撃を受けているのを最後まで隠しきれるかどうか。

「円」

再び呼ぶと円は一瞬だけ目を上げる。

「円が別れたいなら俺はそうする。・・・最後に円の顔が見たかった」

何も言ってくれない。

俺の方が女々しかった。

相手が別れて欲しいと言うのに、「何で」なんかいらないんだ。

嫌がる相手の側にいることなんかないんだ。

顔が見れてよかった。

俺はキャリーバックを立たせて斜めに持つ。

帰ろう。

これ以上円を困らせたくない。

「円、ありがとう」

胸がゆっくりと締め付けられる。

くるりと背中を向けた。

これはしばらく立ち直れないかもしれない。

初めての失恋だ。

これからどうしようかな。

まず伯父さん夫婦に報告をして、明日にでも家に行こう。

普通に学校生活を送って、先輩の卒業式を見て送り出す。

そして俺は3年生になるんだ。
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