■第二篇

□■
2ページ/7ページ

一生懸命に手紙を書いてくれたのだろうが。

手紙を封筒にしまって教室に戻る廊下を歩く。

彼女は数回話したことのある同学年の子であった。

特に印象に残るような子ではない。
ごく普通の子。

いつから俺のことを好きでいてくれたのか。

自分の教室の前には女子生徒の塊があった。
何事だ。

「あ、直樹だ」
「藤森君!」

雪崩のような勢いで一斉に女子が集まってくる。
みんな知ってる顔ぶれであった。

この早朝にこんなに人が集まるなんて。
さきの静けさは何処にいった。

「これあげる!」
「義理だよ、義理」
「正直美味しいから食べてね!」

曲げた腕の中に賽銭箱のように放り込まれる。

「ありがとう」

笑顔で応える。

「直樹はもう彼女に貰ったの?」

1人が髪を掻き分けながら訊く。

「まだ来てないと思うよ」
「直樹に彼女がいなかったら本命であげちゃうのにな〜」
「いつ別れるの?」

失礼な。

「別れる前提ですか」
「だって直樹だもん。や、直樹が遊び人って言ってるわけじゃないんだよ」
「今回は続くといいね」
「応援してるからさっ!」

憎まれ口を叩くが音は優しいのだ。

用事を済ませると一斉に去っていく。
先生に見つからないようにいかに多くのチョコを配れるか。

それが彼女達の2月14日なのだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ