■第二篇

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2年生の夏のことだった。

僕は学祭の実行委員を任された。

自主的に立候補したわけではなかったが、誰もやりたくなさそうだったので手を挙げた。

いつもこんなんだ。

誰もやらないなら自分が。

だから掃除をさぼろうが、仕事を忘れていようが、僕はその人の仕事をこなした。

そのことについて何も思ったことがないし、それが僕の仕事のような気もしていた。

誰からも褒められることなく、僕は雑用を一生懸命にしていた。

生徒会から女装コンテストの案内が来た時には悲鳴を上げそうになった。

クラスはブーイングの嵐に決まっている。
特に自分がいるクラスはそういう面倒な人達の集まりなのだ。

誰しもがその役を押し付けようとしていた。

最終的に今まで関わり合いのなかった山神がその役に抜擢されてしまったのだった。

彼は何か言いたげであったが、そっと口を閉ざして頷いてくれた。

僕はそれを教壇の上から見て、自分が酷く卑怯な人間に思えた。

ここに立って上から見下ろしている自分は話し合いに関係のないようにざわめくクラスを見ていた。

そのことに気付かなかった。

そして山神になった。

彼はこの窮屈な、信頼する仲間がいない空間で首を横に振ることが出来なかったのだ。

この空間が彼をそうさせたのだ。

いつもなら自分が、と手を挙げていただろう。

なのに僕は山神の為に手を高々と挙げることが出来なかった。



学祭当日、意外と生徒会の催し物は盛り上がった。

山神はセーラー服のまま廊下をぶらついていた。

どうやら制服を着替えるつもりがないらしい。
帰りのHRが終わってもずっとそのままの格好であった。

もしかして彼は女装好きなのか?
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