○第一篇

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黒塗りの車が窓の外を通り過ぎた。

と、思ったらマンションの前で止まった。
そして誰かが出てくる。

見覚えのある姿に俺は窓を開けた。

その人物はマンションを見上げて手を大きく大袈裟に振る。

「お迎えに来たよー!」

円だ。



それは遡ること1日前。

「直樹・・・ぃ、痛いっ・・・」
「我慢して」
「やだ・・・ぁ」

思い切りそこに液体を出してやった。

円は小さく悲鳴を上げて涙目になる。

「はい、終わり」

俺は消毒液を引き出しにしまって絆創膏を貼ってやった。
円は参ったという顔をしてそれを見る。

保健室の先生が不在の為、こうして怪我の治療をしている。

「バスケしてて突き指するのは分かるけど、何で手を擦りむくの?」
「俺だって分かんないもん・・・」

円は右手の甲に息を吹きかけて消毒液を乾かそうとしていた。

合同体育、今月はバスケである。
夏なのだから外で運動をしたいと喚く男子生徒もいたが俺は反対だ。

息をしているだけで汗をかく外に出るなんて考えられない。

でも来月はマラソンだったな。

どうせ俺はいないけど。

円は身を乗り出して口を尖らせた。

「ん!」

俺は目だけを保健室のドアに向けるとそっと唇を重ねた。

円は俺の顔を掴んで離れようとしない。
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