○第一篇
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1個だけ歳が違ってもやはり年上という感じで、頼りがいがあって、俺のお兄ちゃんだった。
「あんま泣いてるとまた殴られるよ?」
直ちゃんが俺の横にしゃがみ込んで優しく言う。
俺は泣き止むことが出来なくて嗚咽を洩らしながら涙を流していた。
いつもそう。
今日は泣かないと決めたのにいつも涙が流れてくる。
弱虫の自分が大嫌いで、直ちゃんの後ろに隠れている自分が大嫌いで、変わらない自分が大嫌いだった。
「恭平」
決まって直ちゃんは俺の涙を拭ってくれる。
俺にとって直ちゃんはヒーローで、誰よりも大好きだった。
アメリカ行きが決まったのは俺が小学校5年生に上がった時。
日本語が通じなくなる国で独りぼっちになる恐怖に俺は叫びそうになった。
「僕行きたくない!!ずっとここにいる!!」
駄々をこねると母は困ったような顔をして俺を落ち着かせようと体に触ってくる。
「もう恭に意地悪する子がいなくなるんだよ?新しい友達を作ってみればいいじゃない。ね?」
いじめっ子がいない国。
でも直ちゃんがいない国。
俺を1番理解してくれるのは直ちゃんだけだったのに。
11歳にもなっていない俺は親の決めたことに逆らえずにアメリカに移住することになった。