○第一篇

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そよ風が頬を撫でて過ぎていく。

今日はどちらかというと涼しい日だ。
過ごしやすい。

心地良い気分を害すように、どすんと腹に重たいものが乗っかる。

被せていた参考書を顔から剥がしてそこを見る。

円が猫のように俺の腹に乗っかって口をぱくぱくさせている。
ヘッドフォンを外す。

「ちゅーしていい?」

いきなり耳に入ってきた言葉がこれだ。

俺は呆れて起き上がる。

「いつからキス魔になったんだ」

円はへらりと笑って俺の首に腕を回す。
許しを得ずにしようとする彼の顔面を掴む。

「えー!」
「えー、じゃない。えー、じゃ」
「したいんだもん!」
「そんなしょっちゅうキスしてどうすんのさ」
「しょうがないじゃん!」
「開き直らないの」

そのまま後ろに押すと円は屋上の床に転がった。

すぐに起き上がって四つん這いになりながら近付いてくる。

俺は座りなおして新しいページを開いた。
寝てしまったから全然進まない。

夜まで勉強をしていたらどうしても眠たくなってしまう。
今日初めて授業中に頭をかくかくさせてしまった。

「直樹はしたくないの?」

俺の悩みごとには気付かずに迫る円。

「そんなこと考えてない」
「あっそ!」

意外とあっさり引いてくれた。

円は寝転がって空を見上げる。

その横に俺も寝転がった。
円は隣を見て嬉しそうに笑う。

と、急に目の前が暗くなった。
太陽が雲に隠れたのかと思ったがそうではない。

「なーおちゃんっ」

恭平が腰を手を当てて俺を見下ろしていた。

驚いて起き上がる。
屋上使用は俺しか認められていないはず。

野沢がこっそり鍵を貸してくれていたんだ。
他人が侵入しないように外から鍵をかけたのに。
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