○第一篇

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黒塗りの車なんか大嫌いだ。

格好つけだし、目立つし・・・。

「円さん、今日の天気は雨のち晴れですよ」

宮野は腰を曲げ、テーブルに料理を並べながら言う。

彼は俺が小学校の時に父さんに雇われた家政婦(?)であった。
歳は不明だが若くはない。

白髪の混じる頭がこっちを向く。

男の人なのに家の掃除やら料理やらをしていて他に仕事はなかったのかと首を傾げる。

「すぐ車を―」
「いらない」
「またですか。風邪を引きますよ」
「みんな引いてないもん」
「円さんに限って引くかもしれないですよ」
「俺丈夫だもん」
「そうは見えませんが?」

俺は頬を膨らませて対抗した。

宮野はくすりと笑うと椅子を引いて俺を座らせる。

俺は黙って反対側の椅子に座って皿を自分の方に持ってきた。
宮野は困ったような笑みを見せる。

宮野が朝早く作る料理は美味しい。
母さんの料理の味を覚えていない俺にとって母の味だった。

「朝からこんなに食べないってば・・・」

2人分はあろう皿の並びを見て息を吐く。

「円さんの丈夫の秘訣は宮野の朝食なのでは?」
「・・・・・・意地悪」
「では」

宮野は俺の向かえに着座して皿の1つを取った。

何処からかフォークを抜き取る。

「私もいただきます」

ちょっとお茶目な宮野が好きだ。

「うん!」

朝食を終えると宮野はさっさと出かける準備をした。
いつも待たせてしまうのだ。

結局宮野が準備をしても俺はそれをあしらって1人で出かけてしまうのだけど。

「円さん、車の用意は出来ております」
「いらないってば」

玄間のドアを開けると冷たい風が全身に激しくぶつかってきた。
鳥肌が立ってぶるぶると震え出す。
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