○第一篇

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また物理室のドアを開けることになるとは。

俺は両手に抱えたものを持ったまま物理室の前に立ち尽くしていた。

今回は野沢に頼まれて(そういえば野沢は物理の先生だった)1年生の新しい物理ワークを運んできたわけだが、困ったことに両手がふさがってドアが開かない。

廊下にワークを置いて、また持ち上げるのは大儀だし・・・。

今日に限って足を入れるドアの隙間がない。

仕方ない、1度ワークを床に置くか。

と、腰を下げた時、後ろから腰を支えられた。

撫でられるように触れられたので驚いて悲鳴を上げそうになる。

「ドア?」

嬉しそうな声がしてドアに細い腕が伸びた。

「円」

名前を呼ぶと背後に立っていた円は想像していた通りの嬉しそうな表情を見せた。

円に助けられて俺は物理室に入る。

ワークを近くの机に載せて息を吐いた。
流石に1階から3階まで運ぶのは疲れる。
腰も腕も痛めてしまった。

しかしまだワークの重なりは少ない。

物理室を出て上ってきた階段を下りた。
円は後ろをついてくる。

「何してるの?」
「野沢に頼まれた」
「何で直樹がやっているの?」
「ん〜分からない。俺のこと使いやすいんだろうね」

円は俺の前で立ち止まる。
進めなくて俺も立ち止まった。

「何?」

俺が訊くと円はもじもじと指をいじり始めた。
俺は首を傾げる。

最近円の様子がおかしい。

いつもおかしな行動を取っている彼だが、何だか落ち着かないのだ。
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