─接触1
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父が離婚した時に俺に迷わずに訊いてくれた。
「お父さんと暮らしてくれないか?」
俺は父も母も同じくらい大好きで、選ぶことなんか出来なかった。
だから父が言ってくれて助かった。
母は優しい人だった。
真面目な父に惹かれて一緒になったが、仕事で忙しかった父とすれ違いが生じるようになった。
「お母さんも潤と一緒にいたいけど、きっとお父さんといた方が生活には困らないと思うの。近くにはおばあちゃんもいるし」
母は家を出て行く時に泣きながら俺を抱き締めてくれた。
生まれ育った北国に母は帰っていった。
母の言う通り生活には困らなかったし、暇になれば祖母の家に行った。
それも最初の内だけで、中学に上がる頃には1人で暇を潰せるケータイが手に入り、家でじっとしていることが多かった。
当時ケータイを持っていたのは俺くらいで、親しい友人はいなかった。
そのせいか勉強に取り組む時間は多かった。
進学は当たり前のことで、父とはよく話し合った。
「推薦が欲しいからこの学校に行きたい」
「潤の学力だったらまだ上の学校があるんだぞ?」
「楽して入りたいもん」
父は中学高校とエスカレーター式で上がり、大学受験も易々と乗り越えていった。
かと言って俺に勉強を押し付けたりはしなかった。
高校受験の話が出た時は忙しい時間を割いてまでも応援してくれた。
受験会場まで車で送ってくれたり、合格が分かった時はワンコールでケータイに出てくれた。
学校の何人かが同じ学校に入学したが話したことはない。
人見知りのあった俺は自分から話しかけもせず流れに任せて生活していた。
変化のない日常。
平和と言えば聞こえがいいが退屈であった。
そんなある日、俺は好奇心でブリーチを購入した。
好きなアーティストが金髪になったのがきっかけであった。
レインボーラビットというグループ名で活動しているバンドでボーカルのアオが大好きだった。