─接触1

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顔を思い出すことはそんなにない。

思い浮かべてみろと言われれば浮かぶが、鮮明には思い出せない。

楽しかった思い出なし。

腹立つ思い出多々あり。

でも1つだけ忘れられない出来事があった。

楽しいわけでも、嬉しいわけでもなかったけど。

俺はコンビニに入って例のおにぎりを掴んだ。



「今日も朔馬君のママはいないの?」

近所に住んでいた友人が訊く。

名前は遊。
俺よりも背が小さくて、大人しい性格であった。

「いないよ」
「いつも何処にいるの?」
「知らなーい」
「ふーん」

遊は大して興味なさそうに頷いた。

遊とは学校帰りに毎日遊んだ。
校区が違って同じ学校ではなかったが1番の仲良しであった。

公園に行けばいつも遊がブランコに座っていた。

帰宅時間を知らせる音楽が鳴り響いた。

「帰らなきゃ」

遊はブランコから飛び下りた。

「朔馬君は帰らないの?」
「もうちょっと遊んでく」
「じゃぁね」

一緒に帰りたがっていたが先に帰らせた。

俺は遊の姿が見えなくなるとすぐに公園を出た。

家に帰ると父が居間に寝転がってテレビを見ていた。

部屋に置いてあるダンボール箱を抱えて洗面所に行った。
帰ったら手を洗うように先生に言われていたから。

蛇口をゆっくり捻る。

水をたくさん出すと怒られるから。

背伸びをするとバランスを崩した。
ダンボール箱が凹んで横に倒れ込んだ。
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