─接触1

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俺は弁当箱を教室に忘れた阿呆の為に更衣室まで届けてやった。
いつか奢らせよう。

八雲はジャージを中途半端に着ながらドアまで近付いてきた。

「まじ助かったわー」
「夏場なんだから菌が増殖するってじじぃが」

じじぃとは担任のことだ。

教室を出るのが遅かった俺に担任が八雲の弁当箱を押し付けてきたのだ。

さっき行ったばかりだから追いつくだろう、と。

足の速い八雲には追いつけずに更衣室まで来てしまった。

八雲は巾着を開けて中から飴玉を取り出した。

「糖分がないとやってけないんだわ」

校則違反の1つを俺の手に握らせる。

更衣室には誰もいなかった。
どうやらこいつが着替えるのが最後みたいだ。

他の部員は先にグラウンドでランニングをしていた。

「宮日のことなんだけど」

八雲は声を潜めて話を切り出した。

飴の包み紙をくしゃくしゃにしてゴミ箱に投げる。

「あいつの話ばっかで飽きた」
「そう言わずに聞けよ。あとちょっとで落ちそうなんだ」

あとちょっと、ね・・・

笑いそうになった。

八雲がお気楽な奴に見える。

「賄賂作戦に出ようと思うんだけど、あいつ何が好きなんだ?」

まるで気になる相手にプレゼントをあげようとしている女子みたいなことを訊く。

「首輪」
「首輪?」

俺の発言に八雲は目を丸くする。

「知らね。本人に訊け」

踵を返してドアノブを捻った。

「何だよ、本当に知らないのかよ」
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