→素直

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「じゃぁお母さんは梅田ちゃんのとこにお泊まりね。ちゃんと家のことしといてねー」
「おばさんに迷惑かけないでよね」
「あんたに言われたくないわよ。たっくんに迷惑かけないでよね!」

母は小学生みたいに意地悪く言うと家から出て行った。

たっくんとは拓のことである。
「たくくん」と言いづらいからだ。

土曜日がやってきた。
今日の昼から遊園地に出かけて、それから家に来る。

マヨネーズを塗った食パンにスライスしたゆで卵を挟んで食べた。
簡単サンドイッチだ。

たまには手抜きの朝食もいいだろう。

服を適当にタンスから引っ張り出して準備をした。

時間になったら駅に向かわなくてはいけない。
隣に迎えに行けばいいのだが、拓が待ち合わせをしたいと言い出したのだ。

恋人気分を味わいたいのだと。

正直気が向かない。

だって明日は自分で決めた1週間目なのだから。



駅に着くと拓がガードレールに座って道路に背中を向けていた。

早く着き過ぎた方だと思ったが彼の方が早かったか。

「拓」

肩に触れると振り向いた。
微笑んで立ち上がる。

「待った?」
「今来たとこ!」

拓は俺の手を握った。

「こういうこと言ってみたかったの!圭ちゃん気が利くね」
「普通に言葉が出てきただけだよ」

手を引いて距離を縮ませてきた。

「観覧車乗りたいな」
「久しぶりだな、遊園地。小学生ぶり?」
「うん。最後に行った時も圭ちゃんとだった」

拓にも記憶が残ってたのか。

手を繋いだまま歩いた。

周りがこっちを見てすぐに目を逸らす。
まるでまずいものを見たかのように。
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