→素直
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「カウントダウンしたくないから言わなくていいよ」
拓は静かに言うと頭を下げた。
落ちた鍵を拾う。
言おうとしたら口を挟まれた。
「何で・・・?」
思わず訊いてしまった。
拓は自転車に鍵を差し込んで駐輪場から出した。
「俺が圭ちゃんの気持ちを読み取ってみせる。だから後悔しないように今から圭ちゃんといっぱい触れ合うんだ」
「そう・・・」
俺の気持ちを読み取りたいだなんて。
こんな時にそんなことしなくたっていいではないか。
俺なら言って欲しい。
余命を聞かされずにいなくなるのは後悔が残りそうだ。
1週間バイトを休もうかな。
頭下げたら何とかなりそうかも。
「圭ちゃん、俺お泊まりしたい」
突然言われて今度は俺が鍵を落とした。
拓は自転車にまたがった。
「何処に?俺と?」
「圭ちゃんの家がいい。お母さんが駄目って言う?」
母のことなら許してくれると思う。
母は楽しいことが好きだからだ。
その代わり食事も掃除も俺がしなければいけない。
だから家に人を泊めるのを断らないのかも。
「土日なら大丈夫だと思うよ」
「やった!」
拓はハンドルから手を離して万歳をした。
「圭ちゃんの部屋、落ち着くんだ」
「変なの。何処にでもある部屋じゃないか」