→鈍感

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おばさんが麦茶を出してくれた。
持ち上げると透明なグラスについた水滴がテーブルに垂れる。

実咲さんは軽く頭を下げてグラスを受け取った。

「横井君も北だったんだねー」
「あ、はい」
「拓海ったら何も言ってくれないんだもの」

拓海は無反応で数学の教科書をめくる。

「受験は余裕だったの?」
「余裕はなかったです。頭よくなかったんで」
「でも北ってそんな簡単に入れる高校じゃないでしょ?」

俺達が通う北高校は中の上くらいのレベルだ。
簡単に入れてしまう人もいれば、俺達みたいに死に物狂いで勉強をした人もいる。

実咲さんが卒業した学校に比べたらまだまだだ。

「拓海もすっごい頑張ってたんだよ。このままじゃ落ちるかもって言われてたのに人が変わったように本番で高得点叩き出して」

多分それは本人が知らぬ間に行われていたことだろう。

拓海はふてくされた顔をしてシャーペンをくるくる回す。

「俺じゃなかったのかもな」
「またそんなこと言って」

苦笑。

夏休み前、実咲さんに勉強会に参加させてもらいたいとお願いしに行った。

実咲さんは快く許してくれた。

予定では宿題の助けとちょっとした予習復習。
夏休みいっぱいを使うわけではないらしい。

宿題を計画的に進めて後半は遊び期間になる。

何と素敵な夏休みだろう。

それを聞いて母も喜んでいた。

「横井君って彼女いないの?」
「あー・・・」

ちらと向かえの拓海を見た。

「いないです」

彼女、は。

「へぇ、いそうなのにな。本当は女の子にモテてたりして」


ぐしゃっ


拓海が消しゴムをかけていて宿題のプリントをシワだらけにしてしまったらしい。
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