→鈍感
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自分の身が可愛いか、他人の身が可愛いか。
当たり前に自分だ。
でも状況が違う。
拓海を自分のものにしたい衝動を抑えなければ触れることもままならない。
拓海の身を大事にしなければ俺が終わる。
「圭助」
ハッと机から顔を上げる。
中尾がポケットに手を突っ込んで机の前に立っていた。
窓からじわじわとした生ぬるい熱気が染み出てきて、額をびっしょり濡らしていた。
どうやら俺は寝ていたようだ。
節々が錆びついたみたいに動きがぎくしゃくしている。
腰に負担をかけないように上体をゆっくりと起こした。
「おはよ・・・」
「もう放課後ですぜ、旦那」
中尾は笑って机のフックにかかっている俺のリュックを持ち上げた。
「朝からずっと寝てたね。何かあった?」
「・・・言えないこと」
俺はリストバンドに触れた。
土曜は裏拓海に散々抜かれまくり、終いには拓海が泣いてしまい、昨日は腰が立たなくて1日中ベッドの中にいた。
母にヘルニアなのではないかと疑われたが球技大会のせいにしておいた。
でも1つだけいいことがあった。
拓海とキスをした。
裏拓海じゃなくて拓海と。
ファーストキスはバス内での事故だった。
次は単に俺が勝手にしただけ。
2日前は違った。
驚く様子もなく、むしろ彼から目を閉じたようにも見えた。
何度も何度も同じシーンを繰り返し頭の中で再生する。
あの日俺はご飯をいただかずに家に帰った。
インスタントラーメンをすすりながらさみしく夜を過ごした。
拓海のことが気になって仕方がなかったが、あんな生々しいものを見せられて一緒にいたくはないだろうと考えたのだった