→鈍感
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高校受験を控えていた冬。
バスの待合室で冷たく凍えた手を擦り合わせた。
人が2人しか座れないベンチだけを置いた待合室は窮屈だ。
今日も学校に残って勉強をしていた。
俺が通う学校の先生達は自分の時間を全て生徒達の為に使ってくれる。
だから遅くまで勉強を教えてくれている。
大体の生徒は自販機で買った缶コーヒーを先生に差し出すのだった。
こんなに整った環境の学校なんてあまりないだろう。
マフラーに顔を埋めた。
俺の能力は並。
運動も勉強も並。
これといった特徴がない。
能力だけじゃない。
容姿も並。
彼女は出来なかったし、友達の数も多いわけでも少ないわけでもない。
平凡な家庭に産まれた平凡な中学生だ。
本当は推薦で行きたかったが、並々の俺には目を引くようなものが何もなく、校内選考で落とされてしまったのだった。
だからこうして遅くまで残って勉強をしている。
受験が終わればこの古臭い防寒にもなっていない待合室とはお別れか、と白い息を吐いた。
「おー、圭助じゃーん」
「あ、中尾くーん」
同じクラスの中尾が待合室の横を通った。
中尾は学校近くの塾に通っている。
彼は難関高校の受験を考えていた。
賢さが顔の作りに出ている。
「今帰り?」
「うん。中尾は塾?」
「今晩飯買いに出てるだけ。また塾に戻るんだー」
「大変だね」
中尾は笑うと片手を挙げた。
「じゃっ、コンビニ行ってくるわ。ばいびー」
中尾はこの冬空に自転車をかっ飛ばしていなくなった。