△第三篇

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母親の顔なんか全く覚えていない。

父は一切母の話をしない。

俺は昔から何だか父が怖かった。
何をされたとかそんなのはなく、普段家にいず、たまにいたと思えば書斎にこもりっきりだ。

俺は人見知りなんだろうかと思う。

気付けば俺は父とよぼよぼの使用人と暮らしていた。

使用人の新垣は父の代わりに家のことを教えてくれた。

大体理解は出来た。

俺は父の笑顔を見てみたくて勉強を頑張った。
学校の教師が提案してくれたのだ。

満点のテストを持ち帰る度に新垣は褒めてくれた。

それを父の手に渡す勇気を小学生だった俺は持ち合わせていなかった。



「お母さん・・・?」

オウム返しをすると新垣が頷く。

新垣は穏やかな表情を浮かべて俺の前にしゃがんだ。

「はい。新しい奥様がここに来られます」

でも籍は入っていないと付け足す。
意味は分からなかったが納得したふりをした。

だって俺は頭がいいから。
尊敬する父の子どもなんだと自信を持っていたから下手に首を振れなかった。

「いつ来るの?」
「明日か明後日くらいでしょうかね」
「そう・・・」

新しいお母さん。

新しいと言われても最初のお母さんが分からない。

お母さんってどんな感じなんだろう。

みんな「あったかい」って言ってる。

俺が父を見て思う感情に似ているのかな。

「新しいお母さん」が来たのはその話をした2日後のことだった。

その日も父はいなくて、新垣が迎えた。
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