△第三篇
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「夜分に申し訳ございません。遥さんが直樹さんを連れてくるようにと」
宮野が頭を下げる。
俺は口を開けたまま彼を見た。
夜の8時。
円はバイトに行っている。
ほぼ毎日円はいなかった。
食器を洗っていたらインターフォンが鳴ったのだった。
「俺に何か用があるってことですよね」
「はい。私にはどのような内容なのか分かりませんが」
宮野は目だけを上げる。
「下に車を用意してあります。来ていただけませんか」
あの男が俺に何の用なんだ。
権力を奮って何かをするつもりか。
迷ったが俺も兄に言いたいことがある。
いい機会だ。
宮野もわざわざ来てくれたし断ったら気の毒だ。
「今行きますので下にいて下さい」
「恐れ入ります」
宮野な頭を上げて再び一礼するとエレベーターの方に体を向けた。
ドアを閉める。
いつ帰るか分からないので円に置き手紙を書いた。
兄に会いに行くと言えば手紙がなくても心配すると思うが一応。
泡だらけの食器に水だけをかけてコートを着た。
外に下りると宮野が車の前に立っていた。
暗さのせいで黒塗りの車は背景に溶け込んでいる。
宮野にドアを開けられて乗り込む。
コートを着てきた意味がなかった。
車内は暖かくてすぐに汗をかき始めた。
コートを脱いで膝に載せる。