△第三篇

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直樹が帰ってきた。

本当に直樹が帰ってきたのだ。

夢なんじゃないかと疑う。

俺は珍しく目覚ましをかけて起床した。
いつもは宮野が起こしてくれるから寝坊はしない。

起き上がって顔に触る。

つねったり引っ張ったり叩いたりしてみた。

痛い。

夢じゃない。

直樹が帰ってきたのは紛れもない現実だった。

今まで起きた嫌なこと全てを忘れられる。
そんな感じだ。

着替えを済ませてリビングに向かう。

宮野は台所から俺の存在を確認すると冷蔵庫から玉子2つを取り出す。

今日のメニューはオムレツかな。

「おはようございます」
「おはよう」

昨日直樹は俺が話し終わるまで側にいてくれた。

手から、肩から伝わる体温が俺の弱り切った心を癒やしてくれた。

こんなに幸せでいいんだろうかと不吉な予感さえしてくる。

帰国してすぐだったから疲れていただろうな。

予想通りにスパニッシュオムレツが皿を飾った。
小さなボウルにはゴマダレトマトサラダ。

「トーストにいたしますか?」
「ご飯がいいな」

それを言うと洗面所に向かった。

鏡に欠伸を洩らしながらやってきた彼の姿が映った。

体が硬直する。

濡れた顔をタオルで拭いてすぐに洗面所を出ようとした。

すると肩を掴まれた。

びくりと体が跳ねる。

肩に置かれた手を振り払って洗面所を出た。

俺はタオルを持ったまま食卓椅子に座った。
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