■第二篇

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もしかしたら円は出て来ないかもしれない。

予想はしていた。

円のことだから意地を張って出て来ないだろう。

「円いますか?」

宮野は俺の顔を見て一瞬驚いた表情を見せた。
しかしすぐにいつもの表情に戻る。

「お部屋にいます」
「円、お願い出来ますか」
「・・・少々お時間がかかると思いますが」
「いつまでも待ってます。円が出て来るまで」

宮野は小さく笑うと玄関のドアを閉めた。

俺はキャリーバックを横にしてその上に座った。

円が出て来るまでここに居座ってやろうじゃないか。

朝までいてやる。

やっぱりこんなの納得がいかないんだ。

納得のいく理由を聞けないまま別れを告げられて。

10分くらい経っただろうか。

冷え込みが激しくなってきた。
冬物を用意していなかったので寒気が鋭く肌に刺さる。

しばらくしてドアが静かに開いた。

隙間から外の様子を伺うようにして顔が出て来る。

その少ない隙間からでも誰が出てきたのかすぐに分かった。

俺は立ち上がって隙間に指を入れ、大きく開けた。

ドアノブが手から離れて掴んだ形のままになっていた手を相手が引っ込める。

円が目を見開いたまま俺を見上げていた。

苛立ちが湧く。

同時に愛しさが溢れた。

愛しさとの比があり過ぎてもやもやしたものはすぐに何処かに消えてしまった。

髪が少し長くなっていた。

それ以外は何も変わらない。
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