■第二篇

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「おい、宮野。こいつにピアノ教室行かせてんのかよ」

宮野は頭を振る。

「いいえ。私は無理矢理させるようなことはいたしません。習い事というものは自分の意志で行うものです」
「お前がこいつを甘やかせてるからこんなになるんだろうが」

宮野は謝ることはしなかった。

仕事上悪いことをしていなくても頭を下げるものである。
それが家政婦の仕事だ。

なのに宮野は頭を下げなかった。

それを見て彼は眉間にシワを寄せて腕を組む。

「何だよ、その顔は」

宮野はじっと彼を見る。

「私が仕えているのは旦那様だけです」

宮野の発言に彼は面白くなさそうな顔をする。
八つ当たりでこっちに来なきゃいいけど・・・。

俺は冷えたタオルで手首を冷やしながらソファで休んでいた。

大学の休みに入った彼はずっと家にいた。

何が面白くないのか最近毛を逆立てて俺を痛めつけてくる。

毎回最後には「顔」の話をして終えるのだった。

そんなに俺の顔が気に入らないのか。
同じ血が流れているのだから少しは似ている所があるはずなのに。

さっきは俺がピアノ教室に行っていないことを知って朝から叱られたのだった。

逃げて回る俺を捕まえて暴言を吐き続けるのだ。

ループ。

頭がおかしくなりそうだ。

いや、前から俺の頭はおかしかったかも。

そうだ。
俺の頭はおかしかった。

彼に何かを言われる度にやっとのことで立っているプライドやら、自信やらがなぎ倒される。

俺の何が気に入らないのか。

訊いた所で親切に答えてくれるわけもないか。
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