■第二篇

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言葉が出て来なかった。

電話が鳴った時、驚いた。
そして嬉しかった。

連絡手段がメール以外にあったとは、と。

半年ぶりくらいの彼の声が聞けるのだと通話ボタンを押した。

無言。

俺が何かを言うのを待っているのか。

鼻をすする音と、小さな嗚咽が聞こえてきた。

名前を呼ぼうとした。

そして今にいたる。

俺はケータイを握り締めたまま眉根を寄せた。

「お前何言って―」

言葉が詰まる。

円は声を押し殺していた。

「何があった。何で泣いてんの」
『別れて・・・』
「何で・・・」
『別れて』

これは何かの間違いなのか。

円のことだ。

誰かに何かを言われたか、ため込んだ感情が爆発して頭に血が昇っているか。

「・・・理由を聞きたい」

納得がいかない。

円は受話器の向こうで押し黙った。

理由を考えているのか、泣いて声が出て来ないか。

しばらくして向こうから小さな声が聞こえてきた。

『こんなにつらいなら、もういい・・・』
「・・・」
『直樹の恋人でいるのがつらい・・・』

理由になっていない。

どうしてつらいのか・・・そんなことは訊かなくても分かるはずだった。

でももう少しの辛抱じゃないか。

俺だって円に会いたいのを我慢している。
我慢せざるを得ない環境にいるのだ。

もし本当に円が別れたいのであれば俺は―。
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