■第二篇

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「行く所がないなら私の所に来ればいい」

差し出された手は随分若くて、戸惑う。

第一印象は「最悪」だった。

私が初めて彼に会ったのはいつだったか。
恐らく20代後半だったと思う。



世の中なんて、と斜めに見るようになったのはいつからだっただろう。

高校を中退してからはだらだらと生きてきた。

親から少ない金を絞り取り、行き場を無くした仲間達との遊びは大きな笑い声を生んでくれる。

俺には父親がいなかったから厳しく叱ってくれる人はいない。
親戚もいるのかいないんだか。

「ますみ君」

たまに俺は女の家に転がり込んでいた。

女の名前はいちいち覚えてなんかいない。
必ず髪の長い化粧の濃い女だった。

「何だよ」
「今日は誰も来ない日なの〜」
「彼氏は?」
「彼氏もっ!」

女は俺を後ろから抱き締める。
豊満な胸を背中に押し付けられるが俺はそんな気が起きたことはなかった。

女の腕を解いてソファに寝転がる。

「何さ〜!1回くらいいじゃないの!」
「嫌だね」
「タダで泊まらせてやってんのに!ますみ君全然してくれない!」

女は負けじと俺の上に馬乗りしてくる。

うざい。

俺は女の長髪を引っ張ってキスをした。

すぐに離す。

「これでいい?眠いからどいて」

俺はその大勢のまま目を閉じた。
ちゃんと口を腕で隠して奪われないようにして。
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