→素直
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「俺知らないでお前を驚かそうと・・・ごめん」
「何で謝るの?」
「だって今の奴に梅田を奪われたようなものじゃないか」
詳しい説明をしなくても分かっているようだ。
「梅田を奪われて悔しくないのかよ」
拓が俺を好きなこと。
俺は上体を起こして膝を見た。
「何だか恨めなくて」
「梅田から生まれたから?」
「あいつは拓海でもあるから・・・あいつを恨んだら拓海を恨むのと同じだ。あいつがこの世からいなくなれば同時に拓海もいなくなってしまう」
深いなぁと中尾は言う。
「梅田を乗っ取られたのか」
「乗っ取りって言うと怒るんだ。自分を1人の人間として扱って欲しいんだと思う」
まさか俺の口からこんな真実が語られようとは数分前の彼には想像もしていなかっただろう。
「圭助はどうしたいの?」
「きっと拓海は眠ってる。また知らない間に時間が過ぎているなんてかわいそうだ」
「眠ってたらそんなのも分からないんじゃない?」
予想もしていなかった言葉に困惑する。
まるで眠っていた方が分からなくて楽、みたいな。
首を振って否定した。
「拓海には拓海の与えられた時間がある。後から生まれた人格に左右される人生なんて・・・」
再び俺は首を振った。
拓海の人生とかではない。
1番俺が言いたいこと。
とても単純なこと。
「正直これは俺の自己満足だ。もしかしたら拓海は自ら拓を表に出してるのかもしれない。本人も知らない内に閉じこもってしまいたかったのかもしれない。でも―」
本当は何もかもどうだっていい。
「俺が拓海に会いたいんだ。ただ拓海と一緒にいたいだけなんだ」