→素直

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「・・・拓海」

名前を呟くと虚しさが一気に込み上げた。

最後に触れた指の感触が残っている。


捨てちゃうの


あの言葉の意味は?

あの時の拓海の気持ちを読み取れないままだった。
遠回しに言ったって俺には理解出来ないのに。

「圭ちゃん」

ドア越しに拓海の声を聞いた。

ハッとして顔を上げる。

「拓海のこと考えてるの?」

拓海じゃない。

素直に認めるべきか。

「・・・そうだよ」

俺が答えるとドアを何かが擦る音がした。

「拓海に触りたい?」
「・・・うん」

するとガチャリとドアが開いた。

ドアに寄りかかっていた俺は突然のことにバランスを崩して倒れた。
拓の膝に寄りかかる状態で止まった。

どうやら鍵をしめていなかったらしい。

俺が驚いて振り返り、廊下と玄関との段差に座ると拓が後ろ手でドアを閉めてしゃがむ。

しっかりと鍵をかけた。

「触って?」
「え・・・」

手首を掴まれてびくついた。

それを自分の首元に持ってくる。
ぴっとりとくっつけた。

「体は拓海と同じだよ」
「拓―」
「触るだけ。それなら拓海は怒らないよ」
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