→素直
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抱きつかれているのに気付かない。
そんな感じだ。
犬みたいに懐いて、全身で喜怒哀楽を表す。
分かり易くて疑う余地もない。
「チーズケーキ美味しかったね」
「うん、硬めで好きだったな」
拓は嬉しそうに笑った。
彼の笑い顔を見ていると不思議。
普段笑わない拓海の笑顔なんだもの。
ぎこちないのではなく、自然な笑み。
昔の拓海と同じ。
きっとここにいるのが拓海だったら俺はキスをしてただろうな。
拓海への想いが溢れる瞬間がある。
仕草1つだったり、表情1つだったり、ちょっとしたこと。
溢れる想いは行動に出る。
キス魔だと思われたかもしれない。
「圭ちゃん、家上がってく?今誰もいないけど」
拓が袖を引いた。
「いや、いいや。宿題あるし」
「いつもみたく一緒に―」
「大丈夫。1人でやるから。ごめんね」
拓の手が放れた。
家に入って玄関のドアを閉めた。
その場にしゃがみ込む。
拓といると拓海のことしか考えられない。
こんなに近くにいるのに俺の声も聞こえてないんだ。
つらい。
でも拓を冷たくあしらうことなんか出来なかった。
拓は俺の友達のようで、またあんな悲しい顔は見たくないんだ。