→素直
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「俺だって圭ちゃん困らせたくなんかないんだよ・・・嫌われたくないんだよ・・・でも抑えられないんだもん!だってその為に生まれちゃったんだから!」
息をつく間もなく拓は泣き出した。
拓海のバランスを保つ為に生まれた人格。
目的は欲求の発散。
それが1つの個体になって動き出した。
そうなったら同じ人間であるとかそんな問題ではなくなって、1人の人間として見なくてはいけなくなる。
涙がシャツに染みてくる。
最初は温かさを感じたがすぐに冷たくなった。
「ごめん・・・拓ごめんね」
拓はふるふると首を振った。
拓海の中で育った欲求が1人の人間になるなんて。
俺は間違った接し方をしていたのかもしれない。
拓は自分を持っていたのを分かって欲しかった反面、否定されるのが怖くて拓海になろうとしていたのだ。
「ちゃんと拓に向き合うよ。もう拓海にならなくてもいいんだよ」
「圭ちゃん・・・好き・・・」
拓はシャツの上から胸にキスをした。
学校で拓海を演じることはしなくなった。
流石に家の中では拓海っぽく振る舞っているらしいが。
俺も拓海を想うと会いたくてさみしくて仕方なくなるが、拓には分かられないようにしていた。
望みがないと分かりつつも俺と一緒にいたいと言うなら満足するまでいさせることにした。
彼だって心底俺を困らせたくないはずだ。
いつかきっと拓海に会わせてくれる。
「圭ちゃん、今日寄り道してかない?」
拓は毎日教室まで迎えに来る。
前までは俺が行っていたのに。
「寄り道?」
「お母さんがケーキ屋のチラシ貰ってきて」
拓は後ろにいる中尾を盗み見た。