長編
□出会
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邪見は昨日より無口で、いつも以上に殺生丸を心配そうに見つめていた。
紫花は阿吽の手綱を引き、殺生丸の少し後を歩く邪見を通り過ぎるついでに顔を覗き込んでみる。
「邪見様大丈夫?」
「…な、何じゃ人の顔をそんな風に見て!」
「人って…邪見様は人じゃないよね?」
「カッ!何を言う!!コラ待て」
さっさと早歩きで紫花は邪見を追い越し、殺生丸に追い付くと、静かに横を歩いた。
…気づけばいつもより歩足が早く、時々小走りしないと追い付けない。チラリと殺生丸様を見れば、いつもの表情のままで、特に変化は無いようだ…
「ここからは阿吽に乗れ。私と邪見は鬼に乗る」
昼食を紫花が食べ終わると殺生丸は立ち上がった。それと同時に阿吽が紫花の着物を引っぱり、背に放り投げた。
(鬼って今言った?!)
その怪物の名を聞けば、あの時の事が脳裏に過る。
何時間もの疲労と引き裂かれて喰われる恐怖に耐えたあの日…
「ひゃあ!!!」
暗くなったと上を見上げると、この間の鬼の何百倍も大きな大鬼がゆっくりとこちらに来る所だった。腐敗した死人の様に青黒く変色した皮膚は見ているだけで気持ちが悪くなる。
そんな奴の肩に殺生丸様は飛び乗り、邪見も一緒にいる。
(うう…気持ち悪い…)
紫花の背に目を落とし、深呼吸すると、阿吽はふわりと地を蹴った…
鬼の少し上を飛ぶと、前には長い川が流れているのが見えるが、それ以上は濃い霧のせいで見えない。
それにしても、この巨大な鬼の一歩はとてつもなく大きく、地面が凹んでいる…こんな化け物どこで見つけたんだろう?
真っ直ぐ前を進む殺生丸様を再び見つめるが、特にわかるような変化は無い…
「緊張してるのかな?ね阿吽。殺生丸様は戦いに強いのかな?負けないよね?」
「…グワーン!」
元気よく吼えた阿吽に元気を取り戻す紫花。
「だよね!私もそう思う。でも殺生丸様を応援しよう」
阿吽の腹を軽く撫でると、四つの大きな瞳がゆっくりと気持ち良さそうに閉じ、また開いた。